中国が豊かになれば、民主主義や人権を尊重するはず

歴史家・戦略家で、軍事史及び現代中国の専門家であるマイルズ・マオチュン・ユ教授は、フーバー研究所ホームページに掲載した記事「トランプ政権の中国政策が直面する課題と好機」(2021年10月8日取得)で、一般的にアメリカは共産主義のイデオロギーに対する関心が欠けていることを指摘しています。

ユ教授によれば、共産主義への関心の欠如は2つの問題を生んでいます。

第一に、内政や外交で中国共産党の指導者たちを動かしている原動力を考察できていないということ。第二に、中国が多かれ少なかれアメリカと同じように行動するに違いないという思い込み。この思い込みがあるから、アメリカは、中国を国際的なルールに基づく貿易体制に組み込めば、アメリカと同様にルールを守って行動するだろうと期待したし、アメリカと同様に中国も経済的繁栄を通じて進歩や政治的自由の拡大を実現していくだろうと考えたわけです。

アメリカが中国を経済的に豊かになるよう支援すれば、やがて中国共産党政権も民主主義や人権を尊重するようになるはずだ、単に時間の問題だというのが、大失敗した関与政策の考え方でした。関与政策の根底にはアメリカの共産主義イデオロギーに対する無関心や無知があったということです。

中国北部での中国共産党軍vs日本軍の実態

もう1つの「神話」は、「蒋介石の国民党軍がアメリカの膨大な支援を受けながらろくに日本と戦っていないのにひきかえ、中国共産党軍は血を流して日本と戦っている」というものです。中共軍と日本軍との熾烈な戦いは、アメリカ人が入れない、従って情報収集ができない中国北部で展開されていることになっていました。

実際には、中共軍は中国北部であまり戦わずに日本軍及び汪精衛軍(※)と共存しており、汪精衛軍に賄賂を渡して日本製の武器の横流しを受けていました。

第一の「神話」は戦後になってもしばらくは生き残るのですが、第二の「神話」は第二次世界大戦末期の数カ月の間に露見します。ウェデマイヤーによる情報機関指揮系統の統合が整い、それまでずっとアメリカ情報機関が実現できなかった、中国北部への工作を開始したからです。

※汪精衛軍:1940年に成立した対日協力政権の軍