経済危機のたびにゾンビ型企業延命メカニズムが働く理由

ちなみに、2008年のリーマンショックのような経済危機が起こっても、打撃の規模の割に、日本で倒産する企業は世界に類を見ないほど少ない。直近のコロナ禍でも、現在の倒産件数は、日本史上で見ても最低水準で推移している。

倒産する企業が少ないと聞くと、いいことのように思えるかもしれない。しかし、これは政府が巨大な支出をして倒産を回避しているだけの話だ。

要は、この国は個人を直接救う公助能力があまりにも低いのである。制度も弱いし、デジタル化も進んでいないので、有事に迅速に手を差し伸べられない。

だから毎回、企業内共助システム、「二重の保護」構造に頼らざるを得ない。そこで必死に融資や助成金で企業を支えるしか、困窮した国民を支える方法がないのだ。

これしかないので局面的にはやむを得ないのだが、すでに触れたように、この仕組みは大きな副作用を伴う。

すなわち、突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。

すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである。

政府が無差別にカネを配ってしまった事業の末路

欧米でもコロナ禍に際してかなり大きな政府支出で緊急経済対策を打っているが、失業率も倒産件数も相応に増えている。

もともと、どの国も平時から起業率も廃業率も日本より高いのである。コロナ明けを想定すると、長い目で見ると産業の新陳代謝がさらに進み、デジタル技術を駆使した新しい業態、新しい企業への世代交代が進むだろう。歴史的にも、経済危機の後はイノベーションが加速する場合が多い。

しかし、日本では、むしろ古い産業がゾンビ化したまま生き残り、産業構造の固定化が進んでしまう傾向がある。バブル崩壊の後も、リーマンショックの後もそうだった。

原因が何であれ、稼げない企業は淘汰とうたされるのがビジネスのことわりだ。そういう意味では、倒産企業が少ないことは、長期的な経済発展という観点からは決して歓迎すべきことではないのである。

実際、コロナ禍でも、まったく同じ構図になりつつある。2020年に73兆円、2021年には55兆円の巨大な経済対策予算が組まれ、一般的には、10万円の個人向け給付金やGo Toキャンペーンなどが注目された。しかし、実はいろいろな形で企業にも巨額の資金が流れているのだ。

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キャッシュ・イズ・キング。名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。

しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。

「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ。