さすがに85歳以上となると645件と増加しますが、この数字だって24歳以下の若年層よりは低いのです。本気で事故を減らそうと考えるなら、高齢者より若年層に講習でも受けさせたほうが効果的でしょう。
ブレーキとアクセルの踏み間違いは慌てたりうっかりしたときには若い人でもあります。事実、ペダルの踏み間違いが原因の事故はどの年代でも起きていて、しかもすべての事故に占める割合は1%程度です。つまり高齢者に免許返納を求めるのは根拠がないのです。
周囲には「たかが運転」、高齢者には「されど運転」
そしていちばん見逃してならないのは、免許を返納することで高齢者が要介護になるリスクが高まるということです。筑波大などの研究チームは、運転をやめた高齢者は運転を続けた高齢者に比べて6年後には要介護と認定される人が約2.2倍になるという調査結果をまとめています。
言うまでもなく、運転ができなくなることで家に閉じこもりがちの生活になり、運動機能も脳機能も衰えてしまったからです。自発的な免許返納は良識的な判断のように思われがちですが、実際には老いを加速させ、生きる楽しみを高齢者から奪ってしまうことにしかならないのです。
たかが運転ぐらいでと思うかもしれませんが、それくらい高齢者は危ういバランスを保ちながら生活しています。
運転をやめることで外出の機会が減り、人と会ったり話したりすることも減ると、活動量もどんどん減ってしまいます。とくに外出の手段が限られる地方に暮らす高齢者ほど、車の運転をやめてはいけません。たったそれだけのことでも、維持できるさまざまな機能や楽しみや意欲があります。免許返納は、それをすべて自分から手放すことになりかねないのです。