体温上昇を防ぐ力や喉の渇きを感じる機能も弱まっていく
高齢者の体力レベルの差異が発汗量に与える影響を検討した実験もあります。
気温43℃、湿度30%での運動時における発汗量を若年男性、一般高齢男性、高体力高齢男性で比較したところ、一般高齢者の発汗量は若年成人と比較して少なかったのですが、トレーニングを行っている高体力高齢男性は若年男性と発汗量に差がなかったのです(図表3)。
この結果は、熱放散能力に対する加齢の影響は、単に年齢だけの問題ではないということを意味していると言えそうです。
一方で、暑熱順化(※)の効果に関しても、成人と比較して、高齢者では弱まることが指摘されています。
※註:汗をたくさんかけるようになったり、血液の量(血漿量)が増加したりすることなどによって、体温が上昇しにくい状態に身体が適応すること
暑熱順化で見られる血液量の増加が成人では認められたのに対して、高齢者ではその効果が少ないことが報告されています。また、加齢と共に、「口渇中枢」の機能が減退し、水分補給を行うために重要な「口渇感」が低下するということもあります。
これらのことから考えても、個人差があるものの、高齢者は一般成人と比較して暑さに弱いという認識を持つことが、運動時の熱中症を防ぐ意味においては重要になります。
日頃から運動を行い、体力レベルをできるだけ維持することが、高齢者における暑さ対策の第一歩と言えそうです。
日焼け対策の服装は熱発散を妨げるので要注意
熱中症の発症が環境要因(特に気象条件)と関係することを考えると、屋外であれ屋内であれ、活動を行う場所の環境条件を、熱中症の発症リスクが低い状態に保つことが大事になると思います。
具体的には、発汗が進み脱水が起こるような環境を避けることや、熱放散(熱を逃がすこと)を妨げるような衣服を着用しないこと、気温の高い外気を室内に入れないこと、などが挙げられます。
特に高齢者の方は、空調の使用をためらったり、長袖の衣服を気温が高い時でも着用していたりすることに加え、加齢による体温調節機能の衰えも関係し、室内であっても熱中症になるケースが後を絶たないのが現状です。