最悪の場合、死に至る熱中症を防ぐにはどうしたらいいのか。暑熱対策に詳しいスポーツ医学博士の中村大輔さんは「暑さに対する抵抗力や喉の渇きを感じる機能は、加齢によって弱まってしまう。特に高齢者は、空調を適切に使うことはもちろん、体内の水分量に注意してほしい」という――。

※本稿は、中村大輔『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

扇子であおぐ年配の女性
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年齢を重ねるほど、暑さへの抵抗力は低下する

高齢者における熱中症の発生は社会問題となっています。

消防庁が公開している熱中症の搬送件数のデータでは、搬送件数全体の約半数が65歳以上の高齢者であることがわかります。

では、なぜ高齢者ほど熱中症になりやすいのでしょうか? 東京都観察医務院の報告によれば、熱中症死亡者の8割が65歳以上で、死亡者の9割がエアコンを使用していない、もしくは設置していなかったという報告があります。高齢者があまり空調を使わない傾向などもあるかもしれません。しかし、同時に加齢による生理的な変化が考えられます。

人間の身体は、加齢によってさまざまな機能的な変化が起こります(図表1)。

例えば、持久力の指標である最大酸素摂取量や筋力も加齢によって低下します。それは毎日ハードにトレーニングに取り組んでいる選手の記録を見ても明らかで、加齢による人体機能への影響をゼロにすることは難しいでしょう(図表2)。

図表1にもある通り、加齢の影響によって筋力が低下します。これは、筋量が減少していると考えられます。筋肉は約70~75%が水分であると言われていますので、筋量が低下することは体水分量の低下にも関係する可能性があります。体内の水分量は熱中症予防や体温調節において重要な要素となっています。

つまり、筋量の減少が加齢によって起こると考えると、それだけで暑さに対する抵抗力が低下することになります。