「関税引き下げ」で自給率が低下した国が危ない
また、コメを主食とするハイチは、IMF(国際通貨基金)の融資条件として、1995年に、輸入するコメの関税を3パーセントにまで引き下げることを約束させられていた。
そのため、国内のコメの生産が大幅に減少していたところに、2008年の世界的なコメ輸出の規制で、おカネを出してもコメが買えないという状況になって暴動となり、死者まで出る事態になってしまったのだ。
コメの在庫は世界的には十分にあったが、不安心理から各国がコメを売ってくれなくなったのである。
コロナ禍で輸出規制が多発するなかで、FAO・WHO(世界保健機関)・WTOの事務局長が共同声明を発表し、輸出の規制を解除するように求めると同時に、いっそうの貿易自由化の必要性も訴えた。
だが、各国が輸出を規制した原因が、もともと貿易自由化を推し進めてきたことにあるのに、その解決策が貿易自由化にあるというのも変な話である(WTOは、そもそも貿易の完全自由化を最終ゴールとしていることに根本的な問題がある)。
なぜ、食料自給率の向上ではなく、自由化による海外依存を、というのだろうか。
よく似た事例は、世界銀行やIMFの行動にも見られる。
世銀やIMFは、貿易自由化を含め徹底した規制緩和を強要して、途上国の貧困を増幅させてきた。
グローバル企業が儲けをかすめ取っていくことを容認しておきながら、貧困が改善しないのは規制緩和が足りないせいだ、もっと徹底した規制緩和をすべきだ、と主張している。
貧困緩和の名目で途上国が食いものにされているのだ。
私たちは、このような一部の利益のために農民、市民、国民が食いものにされる経済・社会構造から脱却しなくてはならない。
食料の自由貿易を見直して、食料自給率の低下に歯止めをかけなければならない瀬戸際にきていることを、いま、もう一度思い知らされているのである。
TPP11(アメリカ抜きのTPP=環太平洋連携協定)、日欧EPA(経済連携協定)、日米貿易協定と畳みかける貿易自由化が、危機に弱い社会・経済の構造をつくり出した元凶であると反省すべきである。