コロナ禍でも沸き立つ中国の映画市場

中国を拠点にして活動する日本人俳優・大塚匡将さんは、香港出身のスター・ジャッキー・チェンさんに憧れて中国に渡った。大陸から香港映画界への足掛かりを探ろうとしたのである。何年か後、ついに夢にまで見たジャッキーさんに会う機会が訪れた。

「私はあなたに会いたいがために中国に来ました。いつかは香港で映画に参加したいです!」

するとジャッキー・チェンさんは笑いながら言ったという。

「わざわざ香港に来る必要はないよ。香港映画界は、ほとんど大陸に移動してきているんだからね」

その言葉の意味を、大塚さんはほどなく知ることになった。

かつて「アジアのハリウッド」と称された香港映画界は今や中国に取って代わられ、それどころか中国エンターテインメント界は、本場ハリウッドを凌ぐまでに急成長している。それを端的に示しているのが、映画の興行成績である。特に春節(旧正月)映画がもたらす巨額の富は、世界の予想をはるかに超えている。

2020年の春節はコロナ禍ということもあり閉鎖された映画館も多かった。翌2021年はまさにそのリベンジが起き、前売りの段階から記録を更新していた。21年1月29日午前8時。春節映画・前売り券が発売になったが、5日目の2月2日午前8時には、販売額が2億1500万元(約40億円)を超えたという。

前売り販売額は、公開後の数字にもきちんと反映する。春節初日の2月12日。興行収入は21億元(約399億円)を突破し、1日当たりの数字としては中国映画市場における過去最高の数字である。世界中のエンターテインメント界がコロナ禍に苦しむなか、世界記録も更新したことになる。

長澤まさみや妻夫木聡が出演した映画が大ヒット

そんな春節映画で、前売りランキング、そして興行成績ともに首位を獲得したのが、《唐人街探案3》(『唐人街探偵 東京MISSION』、別名『僕はチャイナタウンの名探偵3』)である。

前売り券の売り上げは9億6800万元で中国映画史上最高を記録した。公開初日には、10億5800万元(約201億円)を売り上げて世界記録を更新、そして公開後4日間で29億元(約551億円)を突破した。

『唐人街探偵 東京MISSION』の日本向けポスター(写真=『唐人街探偵 東京MISSION』公式サイトより)

異例の大ヒットと言っていい。

中国・映画興行の数字を塗り替えたこの作品は、人気シリーズの第3作である。同時に日本人として無視できないのは、舞台が日本であるということだ。中国のスター、劉昊然さん演じる青年探偵と王宝強さん演じる彼の叔父が、世界のチャイナタウンで起こる事件を解決していくというミステリー・コメディーで、1作目はタイ、2作目はニューヨーク、そして3作目が東京である。