現代はまさに情報の海だ。30年前までは、美味しいお店を知っていたり最新の話題を披露したりする知識の豊富さが大きな武器だったが、今はそれが標準装備になってしまった。
ところが、その分僕たちが博識になったかと言うと、答えはおそらくノーだろう。
詳しくは『スマホ脳』にも明記されているが、人は何かを記憶するとき、脳の細胞間のつながりに変化が起きる。
短期間の記憶であれば、既存の細胞間のつながりを強化するだけでよい。しかし数カ月、数年、あるいは一生残るような長期記憶をしようとすると、細胞間に新しいつながりをつくり、新たなたんぱく質を形成する必要がある。
仕入れた情報を消化するには時間がかかる
さらにそのつながりを強化するために、そこを通る信号を何度も発信しなければならない。新しい情報を自分の知識として蓄えるプロセスは、脳が最もエネルギーを必要とする作業なのだ。
加えて、脳内でその情報を分析し、消化するためには一定の時間がかかる。デフォルト・モード・ネットワークもそのための回路の一つだが、情報を目で見て理解することと、それを自分のものとして消化することは全く別の作業なのだ。
インターネットでいくら豊富な情報を仕入れても、その大半は、脳の外にそのまま垂れ流しているようなものなのである。
集中力の低下も深刻だ。デジタル時代になって、本を集中して読めなくなったり、じっと座って映画を1本観られなくなったという人は多い(ストーリーを短縮した「ファスト映画」も問題になった)。
リンク先を瞬時に飛び回り、「この記事は○分で読めます」という注意書きをチェックしながらスピーディーに情報を収集していく思考の速さは、一つのことにじっくり向き合うプロセスと対極にある。
集中力を「貴重品」にしたスマートフォン
『スマホ脳』で興味深い実験が紹介されている。大学生500人を対象に、記憶力と集中力の調査をした。500人のうち一定の学生はスマートフォンを教室の外に置き、他の学生はサイレントモードにしてポケットにしまわせた。すると、スマートフォンを教室の外に置いた学生の方が、よりよい成績を残したという。
恐ろしいことに、スマートフォンの画面を見ていようがいまいが、そこにあるというだけで集中力が阻害されるということだ。今の時代、集中力はもはや「貴重品」なのだ。
インターネットに誘引される感情によって、誤った判断をしたり、自分の本質を見失うリスクもある。SNSやネットニュースで流れる情報のほとんどが些末で自分の人生とは関係のないことなのに、それによって精神状態を乱された経験は、誰にでも少なからずあるだろう。
本来、インターネットは広い領域のツールであるはずなのに、SNSのタイムラインやアルゴリズムに沿った「おすすめ」ばかり見ているせいで、思考や価値観が逆に狭まるケースもある。
スマートフォンに触れない時間は「極上の贅沢」
そういうわけで、デジタルデトックスは、定期的に必ず実践した方がよい。
なにも突然、「今日1日はインターネット禁止!」などとハードルを設ける必要はない。1日30分でもいい。あるいは先に紹介したマインドフルネス瞑想をする時間だけでもいいし、電車の中でスマートフォンをチェックする習慣がある人は、それをやめるだけでも何か変化があるはずだ。
僕の場合は、毎日1時間のランニングがデジタルデトックスになっている。「そのくらいでいいのか」と思うかもしれないが、今の時代に、パソコンにもスマートフォンにも手をつけずに1時間過ごすのは、なかなか贅沢な時間であるような気がする。