何もしない時に活性化する神経回路の働き
人がマインドフルネス状態になっているとき、脳の中ではどのようなことが起きているのだろうか。
脳内には、「デフォルト・モード・ネットワーク」という、少し変わった神経回路がある。前頭前野や偏桃体といった、脳の各部位をつないで束ねる中心的な役割を果たしている。通常、人の脳は、何か考え事をしているときに活発に活動するものだ。
ところが、このデフォルト・モード・ネットワークは、そうしたときには活動を潜め、無目的で何も考えていないときだけ活発化する特質がある。言わば脳がアイドリング状態のときに、活発に活動している神経回路なのだ。
このとき、脳内で何が行われているかと言うと、情報の整理をしたり、自分自身を振り返ったりしている。
それはまるで、閉店後のレストランのようだ。営業中は忙しくて、料理人もウエイトレスも目の前のタスクに追われている。でも、お客さんが帰って店が閉まると、ホッと一息。スタッフ全員がフロアに集まって、「今日も忙しかったね」「こんなお客さんがいて……」などとその日にあったことを語り合い、情報や感情をシェアする。
僕たちがボーッとしているときに脳内でひっそりと開かれているこの反省会こそが、デフォルト・モード・ネットワークの役割であると言える。
頭がクリアになれば、創造性が高まる
では、この反省会が僕たちにもたらしてくれるものは何か。
まずは情報が整理されることで、頭がスッキリとクリアになる。さらに、それぞれの情報や記憶が結びつきやすくなり、創造性が高まるという大きなメリットがある。
グーグルが社員研修にいち早くマインドフルネスを取り入れたのも、AIにはまだ手が届かない、無意識を耕すことで生まれる人間のクリエイティビティに着目してのこともあったであろう。
もともと、グーグルの企業としてのミッションは、「世界のすべてを検索可能にする」ことだった。検索エンジンに単語を入力すれば関連する無数の情報が出てくるし、ストリートビューにアクセスすれば、どこにいても世界中の景色を眺めることができる。
それを可能にしたグーグルの一番の課題が、「自分の脳や心の検索」。外部の情報は無限に収集できても、肝心の自分の中にある情報を深掘りできていない現状に注目し、その探求に乗り出した第一歩がマインドフルネスだったのだ。