脳科学者・中野信子さんと精神科医・和田秀樹さんが共著『頭のよさとは何か』(プレジデント社)を出した。なぜ日本に「バカ」がはびこるのか。「本物の頭のよさ」とはなんなのか。2人の白熱対論の一部を特別公開する──。(第1回/全2回)

※本稿は、中野信子×和田秀樹『頭のよさとは何か』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

脳は前頭葉から「老化」する

【和田】僕はこれまで、精神科医として多くの高齢者を見てきました。

ふつうはみなさん、歳をとったら自分も記憶障害や知能障害が起きるのではと不安に感じているものでしょう。でも、臨床的な観察から言うと、これがずいぶん違う。記憶障害や知能障害が起こるはるか以前に、まず脳の前頭葉機能が衰えてしまうんです。

【中野】ということは……。

【和田】意欲だとか新しいことへの対応能力だとか、クリエイティビティとか、そういった能力から先に「老化」してしまうんですね。

それでよく聞かれるのが、「じゃあどうやったら前頭葉を鍛えられるの?」ということ。流行の「脳トレ」だと、「単純計算を繰り返したり、声を出したりするのがいい」なんて言いますよね。

精神科医・和田秀樹氏
写真=三浦憲治
精神科医・和田秀樹氏

「脳トレ」に意味はあるか?

【中野】ご家庭で日常的にできる脳のトレーニングといった類のものって、15年くらい前からある気がしますが、いわゆる「脳トレ」を本当にやっている人は、実際どれだけいるんでしょうか?

【和田】「脳トレ」自体はかなり眉唾まゆつばなところがあるけれど、続けることで脳の血流が増えることは悪いことではないし、前頭葉を使うことになるのは間違いないと思うんだよね。

【中野】血流と神経新生(*)やシナプスの形成に相関があると仮定すれば、血流の増加によって、いわば脳は本当に鍛えられると考えてよいということですか?

*神経幹細胞が分裂、分化して、新たな神経細胞が生まれること。

【和田】歳をとっても、日頃から筋肉を使っている人のほうが、使わない人よりも筋肉は落ちにくいですよね。それと同じで、たとえば日本人の高齢者は新聞をよく読むから、意外に側頭葉機能は落ちないと思うんです。前頭葉機能というのも、使っているほうが落ちにくいんじゃないかと、高齢者をずっと見てきた僕としては感じています。

【中野】なるほど。