注視すべきは「EQ」

【和田】ところで中野先生に聞きたいのですが、「右脳理論」「左脳理論」というものがあるでしょう。僕らが高校生のとき、「受験勉強ばかりしていても左脳しか鍛えられなくて、右脳が鍛えられない」と散々聞かされていました。その理論って、本当のところどうなんでしょう?

【中野】すでに否定する見解が出されていますよね。私も、左右の機能分化はあるものの、左脳が論理で右脳が芸術(?)という理論にエビデンスが乏しく、信用できないと考えています。

太陽を背景に、手のひらに透明な脳を乗せているイメージ
写真=iStock.com/Natali_Mis
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【和田】実は、僕もまったく信用してないんです。

僕は、右脳というより、前頭葉の機能とそのトレーニングにむしろ注目しています。前頭葉機能と知能との関係で注視すべきは「EQ(*)」だと思っています。

*Emotional Intelligence Quotientの略。「心の知能指数」と訳される。感情を上手に管理、コントロールする能力を指す。IQが知能の発達を示すのに対し、EQは感情面から仕事に取り組む姿勢や人間関係への関心などを評価する。

前頭葉を損傷して人生が暗転したエリート弁護士

【和田】EQに関して、アイオワ大学のアントニオ・ダマシオ神経学部長の興味深い研究があります。

ダマシオが診察したエリオット(*)という30代の患者は、弁護士として成功した人でしたが、彼は若くして脳腫瘍におかされ、前頭葉が損傷を受けたため、仕事が続けられず廃人同様の生活をしていました。そして脳外科医によって手術が行われ、腫瘍は脳から完全に摘出されました。

*研究では、身元の特定を避けるため職業が改変されている。本当は弁護士ではなく、エリート商社マンだったという説がある。

そこまではいいのですが、なんと彼は、術後に人がまるっきり変わってしまったんです。仕事を途中で投げ出したり、どうでもいいことに妙にこだわるようになったり。

そこでダマシオが、人格が変わってしまったエリオットを改めて検査したところ、前頭葉の表面は無事だったけど、内側がかなり損傷していることがわかったのです。

ダマシオの検査によれば、知能テストではまったく「異常なし」。でも、感情のコントロールが悪くなるわ、弁護士時代は非常に共感能力が高かった人なのに、まったくダメになってしまうわと、恐ろしい結果になってしまったんです。