EQは前頭葉の働きを示す

【中野】フィニアス・ゲージ(*)のEQ版っていう感じですね。彼も鉄道工事に従事していたときの事故で脳が損傷し、性格がまったく変わってしまったんですよね。

*19世紀アメリカの鉄道作業員。鉄道工事の事故で、大きな鉄の棒が彼の脳を完全に突き抜けて前頭葉に大きな損傷を受けた。にもかかわらず命に別状はなかったのだが、事故後は人格と行動が完全に変わったといわれる。

【和田】そうそう、まさに。ダマシオは、こういった異常を起こす病変の患者がほかにもいることに気づいたんです。

この話が、ダニエル・ゴールマン(*)のEQ解説書で紹介されてから、多くの研究者は、「EQは前頭葉の働きを示すもの」と考えるようになりました。逆に捉えれば、前頭葉の働きをよくできれば、EQは向上させることができる、ということでもある。

*心理学者・科学ジャーナリスト。EQに関する書籍を執筆。『EQ こころの知能指数』など邦訳されている作品も多い。

頭のよさには知能面、感情面がある

【中野】前頭葉にフォーカスして対談を進めていくのはいい考えですね。

今回、和田先生と私が本を作るということで、どういうテーマがいいかずっと考えていたんです。せっかくですから、「“頭がいい”とはどういうことか」というテーマがいいんじゃないか。いまの話を受ければ、「頭のよさ」には、知能面もあれば、感情面もありますよね。

【和田】なるほど。

【中野】そんなふうに考えたのには、実は個人的な理由もあるんです。

いまの東大と昔の東大は雲泥の差があるとはいえ、まだまだ世間的に関心を持たれている大学ですよね。毎年、東大理IIIにはそれなりの数の人が受かりますが、和田先生はその中でも際立つ存在でした。私は、学生時代に和田先生の本(*)を読んで、「この人の切れ味はすごいな」と驚いたことがあったんです、生意気にも。

*和田氏は1986年に『試験に強い子がひきつる本──偏差値40でも東大に入れる驚異の和田式受験法88』を上梓。その後、多くの受験関連本を刊行している。中野氏は東大受験を目指しているときに和田氏の本を読み、複雑な課題が一本の補助線を引くことで一気に整理されるような爽快感に打たれた、という。