新規顧客の獲得コストを分析した海外の研究結果

「1人の新規顧客を獲得するためのコストは既存顧客を獲得するためのコストの5倍」などといわれますが、本当でしょうか? そしてなぜでしょうか? また、どんなときに特に新規顧客のコストは高くなりがちなのでしょうか?

このような問いについても海外の研究者は大規模なデータを用いて、絡み合った様々な要因を解きほぐしながら、実務家にとって有益な研究結果を与えています。

ここではその例の1つとして、41カ国の携帯電話会社のデータを用いた有名な研究を取り上げましょう。

ここでは4半期ごとの新規加入者数と現在の顧客から離脱率を計算し、また販促費の変動と新規顧客数・維持された既存顧客数の関係から成立する式を導いて、1人の新規顧客獲得のコストと既存顧客維持コストを出しています(図表1)。

既存顧客を維持するコストの平均2~5倍かかる

結果として得られた知見のうちいくつかを紹介します。

上野雄史・星野崇宏・安田洋祐・山口真一『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP)

①原則として既存顧客維持コストは安い(1新規顧客獲得のコストは1既存顧客維持のコストの平均2~5倍)
②競合が増えると新規顧客獲得コストは増える。一方、競合が増えても顧客維持コストは変わらない
③顧客維持はリーダー(トップ企業)とフォロワー(2位以下)で変わらない
④リーダー企業の新規顧客コストは、その製品・サービスが普及すると大分下がる。その理由としては、新しい製品やサービスを後から利用するようになった顧客(有名なロジャースの分類でいう後期大衆)はリスク回避的であり、最大手を選ぶためだと思われる

つまり革新的な製品やサービスは競合が増える前にどれだけ新規顧客を刈り取るかが重要であり、一方、もしあなたがフォロワー企業の立場なら、早期であればまだ新規顧客獲得が重要であるが、成熟期なら既存顧客維持が重要であることを示唆しています。

やや常識的な結果と思うかもしれませんが、このような研究では具体的にどういう状態で新規顧客獲得と既存顧客維持のコストを定量的に比べ、どちらにどの程度、投資したらよいかまで導くことができる分析結果を与えています。

※1カ月の支払額が異なる場合や、離脱率が契約初期は高くだんだん低くなるなど現実を反映した式もありますが、ここでは説明のため簡単化しています。

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