各部署の施策にどれだけコストを掛けるのが正解か

もし貴社が売り上げと利益で伸び悩み、社内会議で今後どうするかの意見を各部門のリーダーが提案するとしましょう。

広告宣伝部は新規顧客獲得のための広告費の増額を要求し、営業部は新規顧客獲得のためのセールスの人員を要求し、サービス部門は既存顧客の離脱を防止すべくポイントプログラムサービスの拡充を要求し、企画部は新しいサービス開発を求める……。

一体、どの施策にどれだけコストを掛ければよいのでしょうか?

実はこれを統一的に見ることができるのが、顧客生涯価値に基づくCRMの考え方なのです。

例えば先ほどのキャリア企業が既存顧客の離脱防止のために、ポイントプログラムを拡充するプランを考えたとしましょう。

一定の基準から、離脱する可能性のある、インセンティブに影響されやすい顧客として、過去に1万5000円のコストを掛けて獲得した既存顧客を考えましょう。

自社にとって最もリターンの得られる選択肢を導ける

先ほどの②の顧客同様の顧客が既存顧客として存在すればその生涯価値は2.1万円です。この種の顧客を③としますが、彼らにポイントプログラムで「継続すればするほどお得になるインセンティブ」を付与したとしましょう。ここで、

③として月の支払い額が「A=0.5万円」「利益率B=20%」、平均で8年、つまり「C=96カ月」契約を続けるなら、継続のインセンティブを期間中「D=2万円」支払ったとしても、

③で獲得できる顧客1人の生涯価値

=0.5万×20%×96カ月−(2万+1.5万)=6.1万円

となるわけです。

つまり、「2万ポイントを与える既存顧客維持施策」で③の生涯価値を「6.1万−2.1万=4万円」高めることができます。

さて、あなたは経営者で10億円の投資をするとして、

・①の新規顧客獲得施策(10万円に対して26万円のリターン)
・②の新規顧客獲得施策(1.5万円に対して2.1万円のリターン)
・③の既存顧客維持施策(2万円に対して4万円のリターン)

のうち、どれを行なうべきでしょうか?

費用対効果が高いのは①(10万円に対して26万円のリターン)ですが、①で獲得できるタイプの顧客には限りがあります。もし①の顧客が5000人しか獲得できないなら、①には5億円しか使えず、5億円余ります。

その5億円を②の新規顧客施策に投じることで7億円のリターン、③の既存顧客維持施策に投じることで10億円のリターンが得られることになります。

結果としては①に5億円、次に③に5億円投資するのが一番よいことが分かります。