「顧客生涯価値」を計算する一番簡単な方法

本来のCRMがどういうものか、何となくイメージはつかめたでしょうか。

お客様を大事にすること、顧客満足度を上げる努力をすることなどは、もちろん大切です。

ただし、ビジネスとは顧客から対価を受け取ってこそ成立するものである以上、「その顧客は、どれくらい稼がせてくれるのか?」という観点から冷静に戦略を立てる必要があるわけです。究極的には、稼がせてくれない顧客にはコストは掛けられないという判断も必要なのです。

「その顧客は、今後どれくらい稼がせてくれるのか」――これをCRMでは「顧客生涯価値」と呼びます。

その商品を買ってくれた瞬間、あるいは契約を取り付けた瞬間の利益ではなく、中長期的に見て、どれほどの利益が見込めるのか。これは、企業が継続して利益をあげていくために、さらにいえば、企業そのものが持続していくために、大変重要な観点です。

一番簡単な場合の顧客生涯価値の計算式を、念のため示したいと思います。

簡単化のためにサブスクリプションの契約としましょう。顧客は毎月A円のサブスクプランを支払いますが、そのプランの利益率はB%としましょう。また、その顧客の予想契約期間をCカ月としましょう。また、この顧客を獲得するために必要な値引き額や広告販促費をD円としましょう。

このとき、

顧客の生涯価値=A×(B/100)×C−D

です。簡単ですね。先ほどの携帯キャリアの例を具体的に見ていきましょう。

計算できるかできないかで純利益に大きな差が出る

①として量販店のセールスの合間に声がけするのであれば、10万ポイント以外のコストはないので、「D=10万ポイント」となります。獲得すべき顧客は月の支払い額が高い人なので、ここでは「A=1万円」「利益率Bは30%」としましょう。

このタイプの顧客が平均10年で「C=120カ月」契約を続けるなら、

①で獲得できる顧客1人の生涯価値

=1万×30%×120カ月−10万=26万円

です。一方、

②として1万ポイントキャンペーンでは広告販促のコストが掛かります。ポイント以外に1人当たり追加で5000円かかるとすれば、「D=1.5万円」。このコストを掛けて獲得できる顧客の月の支払額は「A=0.5万円」「利益率Bは20%」の想定です。この顧客が平均3年で「C=36カ月」契約を続けるならば、

②で獲得できる顧客1人の生涯価値

=0.5万×20%×36カ月−1.5万=2.1万円

です。

ここで、1億5000万円の販促費があった場合には、

・①の顧客には1500人に投資でき、3億9000万円の純利益が得られる
・②の顧客には1万人に投資でき、2億1000万円の純利益が得られる

ことになります。

具体的な数値はどうあれ、この種の計算があり利益が得られると気付く企業では1台10万円という大胆な販促が行なわれており、この種の計算ができない企業は広く薄い販促をしてしまうのです。