必ず回収できるから30万円分も「初期投資」した

30万ポイントを付与するというのは、かなりのコストです。そのキャリア企業は、我が家という新規顧客を獲得するために30万ポイントの「初期投資」をした。なぜかといったら、新規のお客様に喜んでもらうため……ということではありません。

一番の理由は、30万ポイントの初期投資が、いずれ大きなリターンとなって回収されると踏んだからです。我が家という新規顧客から得られる利益は、いずれ30万ポイントの初期投資を超えるという試算が働いていたはずなのです。

マーケティングの分割
写真=iStock.com/Jirsak
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実際、キャリア企業に支払っている通信料は家のインターネットをいれると毎月3万円ほど。1年で36万円ですから、コストなどを無視して単純に考えれば、そのキャリア企業は、まず1年間、我が家に離脱されなければ元が取れる計算です。たとえ利益率が3割であっても3年使い続けてもらえば初期投資は回収できますね。

一方で、乗り換えキャンペーンなどでよくある、「誰に対しても一律1万ポイント」といった薄く広い施策、これはどうでしょうか?

薄く広いキャンペーンの費用対効果は著しく低い

もし私が「1万ポイント差し上げます」と言われていたらどうか。元のキャリアに対する思い入れはありませんが、手続きの面倒さなどのほうが勝ってしまい、おそらく乗り換えていなかったでしょう。

薄く広いキャンペーンで動く人もいるかもしれませんが、告知のための広告宣伝費や関連費用も生じます。これで動くのは値引きやポイントに敏感な顧客、手続きで失う時間をいとわない、比較的所得が低い顧客であり、他社が同様のキャンペーンをしたら再度乗り換えられる可能性は高いです。費用対効果は著しく低いでしょう。

ちなみに「1台10万ポイントあげちゃう」キャンペーンの対象になるのはどんな人でしょうか? 例えば「引っ越しで一軒家に移る」「それなりに高所得者の多い地域に住む」など、高い料金プランを選ぶ、つまり利益率が高い人。また、わざわざキャリア間の違いを調べて頻繁に乗り換えをするための時間や労力というコストを掛ける可能性が低い、つまり離脱率が低い人。要するに、1台で10万円を掛けてでも獲得する価値のある(=生涯価値の高い)顧客です。

実はこの会社とは以前、とある業務で関係があり、生涯価値観点でプロモーションの投資対効果を計算していると聞いたことがあるので、まず確実でしょう。

誰かれ構わず一律の広く薄いキャンペーンを打つことで振り向くのは、離反可能性の高い顧客です。離反しにくい対象を選んで大きなポイントを与えるような新規顧客獲得施策のほうが、長期的な利益が高いのは計算しなくても分かることです。