「お客様」を「利益」というドライな目線で捉える

CRMとは「お得意客を大事にする」「顧客をファンにさせる」ことだ、など国内では多くの誤解があります。世界標準のCRMは残念ながらもっとドライに顧客を見ており、端的にいえば自社に利益をもたらしてくれる存在です。

実務では新規顧客キャンペーンや既存顧客キャンペーンとして別々に掛けるコストを決めて実施することがありますが、CRMの思考法は一気通貫です。つまり、

①新規顧客獲得においては、相応の営業や広告、販促コストを掛けてでも「利益をもたらす顧客」なら獲得し、コストに見合う利益をもたらさない顧客ならコストを掛けてまで獲得しないこと。さらに獲得時の営業や広告、販促といった各種手段にどれだけコストを配分するか決めること
②既存顧客維持においては、その顧客が他社に乗り換える可能性や自社顧客であり続ける場合の利益額を踏まえて離脱防止のための施策を打つ、あるいは打たないこと
③これらを利益の指標である顧客の生涯価値(LTV:Life-Time Value)で統一的に管理する、場合によっては全社の利益最大化の観点から新規顧客獲得と既存顧客維持にどのようにコストを配分するか、さらには営業、広告、販管のコスト(投資)の比率や総額そのものを決めること

これがCRMによる統一的な利益の最大化です。

他社からの送客に対するキックバック、営業の人件費、広告、値引き、顧客サポート、場合によっては新しい製品やサービスの開発など、あらゆる顧客関連の活動を利益観点で統一的に管理するフレームワークです。

男性は、本の中で顧客の生涯価値の概念を読みます
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携帯キャリアを乗り換えただけで「10万円」のカラクリ

具体的に新規顧客獲得での例を挙げましょう。

CRMでは、顧客を「初期投資」と「長期的なリターン」で考えます。ひとことでいえば「ある顧客に、ある初期投資をしたら、どれだけの長期的な利益を見込めるか」という視点で顧客を捉えるのです。

私の体験談を例に説明します。

一軒家への引っ越しにともなって、大きめの冷蔵庫を買いに妻と一緒に家電量販店へ行ったときのことです。冷蔵庫を選び終え、会計を待っていると、別のスタッフらしき人が私に歩み寄ってきました。その人は家電量販店のスタッフではなく、ある携帯電話キャリア企業から派遣されてきたセールススタッフでした。

話を聞いてみると、「今日、ここで携帯キャリアを乗り換えたら、スマートフォン1台につき、この家電量販店のポイントを10万ポイントもらえる」とのこと。

我が家には3台のスマートフォンがあるため、家族全員で乗り換えたら、なんと30万ポイントも付与される。「1ポイント=1円」で30万円分ものポイントがもらえることになります。もちろん乗り換えを即決しました。

さて、我が家にとっては「正味30万円ももらえてラッキーだった」という、この話をキャリア企業の側に立って考えてみましょう。