「ファーストペンギンになって野球への恩返し恩送り」

またこの日は、午前中の教室から残った兄妹の2人が、練習試合の最中、女子マネジャーを相手にネット裏のトランポリンで跳ねたりして遊んでいた。さらにゲーム中にベンチに入って高校生に交じって戦況を見つめる場面もあった。

「良いか悪いかわかりませんが、選手が何を話しているか聞けたりできる。うちがファーストペンギンになって試してみたい。野球への恩返し、恩送りをしていけば、いろんな価値が見出せるんちゃうかな」

香里丘の部員は3年生15人、2年生14人、新1年生が16人。府立としては比較的、安定した部員が毎年、入ってくる。それでも、昨年の3年生は35人いたというから、もう少し増えればお互いの競争心も激しくなるだろう。

2018年の強豪ひしめく北大阪大会でベスト8に入った。昨夏は4回戦で全国制覇を成し遂げたこともある履正社に1対2と善戦。府立の中では実力のある高校だ。正規の広さは取れないが自校のグラウンドで試合もできて、公立の中では環境はいいほうでもある。

片や、一緒に練習試合をした牧野高校も枚方市内の進学校。3年生が5人、2年生が9人でランナーをつけた練習は満足にできない。

新山佳太監督は昨年、中学生対象の学校説明会を8回もやって奔走したという。ただ野球教室は新鮮で、勧誘の基本を見つめることにもなったようだ。

「スポーツは楽しく笑って、というのが原点ですよね。人を集めるには、今日のような気持ちは忘れたらあかん、と高校生には伝えたいですね」

岡田監督は、野球の名門・桜宮高校出身で高校の監督歴19年のベテラン体育教師だ。練習試合の最中はバッターにブロックサインを出しながら、顔はベンチの選手にむかって、前のプレーの反省点を早口で伝えていた。野球を知り尽くした熱血漢だからこそ、今、大阪桐蔭や履正社といった私立に対抗できるようになるべく部員を少しでも増やそうと模索している。

午後、さっそく4月入部希望の中学生2人が練習試合を見学に来ていた。

「こんなところに入学するんだ、という雰囲気を見てってな」

岡田監督が彼らに声をかけた。

「うちがファーストペンギンになって試していきたい」

岡田監督の印象的だった言葉だ。ペンギンの親が子供のための食糧を求めて天敵が待ち構える海に飛び込むシーンが思い浮かぶ。

甲子園を目指しながら、ボールパーク化の夢を胸に勇気をもって飛び込む……。“香里丘パークグラウンド”で今後、大勢の子供たちが遊んでいたら、それは甲子園出場とは別の快挙といえるかもしれない。

撮影=清水岳志
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