※本稿は、藤田憲右『多賀少年野球クラブに学びてぇ!』(インプレス)の一部を再編集したものです。
イタリアで目の当たりにした「本当の野球」のあり方
【藤田】そもそもなんですが、辻さんは今でこそ「世界一楽しく! 世界一強く!」という方針を掲げていらっしゃいますけど、その前まではゴリゴリのスポ根指導をされていたわけですよね。
【辻】めちゃくちゃスポ根でしたね。
【藤田】でも全国大会で準優勝したりとか、スポ根指導でも十分な結果を残せていたわけじゃないですか? 指導方針を変えようと思ったのは何がきっかけだったんですか?
【辻】2011年にマクドナルド杯(※)で3位になったんです。優勝チームは「国際ユース野球イタリア大会」に出場できるのですが、たまたま優勝、準優勝したチームが辞退して僕らが行かせていただくことになったんです。それでイタリアに行って、そこで見たこと、経験したことがきっかけでしたね。
※「小学生の甲子園」とも呼ばれる全国大会。正式名称は「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」
【藤田】イタリアで野球の影響を受けてきたんですか?
【辻】そうなんです。なぜかイタリアで(笑)。イタリアはサッカー王国ですから野球ってマイナー競技なんです。だから試合ももちろん僕らが勝ったんですけど、でも彼らは負けているのにとても楽しそうに野球をやっていたんです。試合後に我々のところにニコニコしながらやってきて、子ども達のグローブやら帽子やらを「ちょっと見せてー」と興味津々で、子ども同士すぐに打ち解けて仲良くなって。
【藤田】なんか想像つきますね(笑)。
【辻】あとはお国柄なんでしょうけど、試合開始時刻になってもまだグラウンドにラインが引かれていなかったり、審判も来ていなかったりとか(笑)。でも誰もピリピリしていない。もう本当に大らかで。
【藤田】大らかすぎますね(笑)。
【辻】関係者に「審判はまだ来ないんですか?」って訊いたら「あっちの方から来るんじゃないか?」みたいなことを言われたり。もう開始時刻を過ぎているんですよ(笑)。
【藤田】(笑)。
【辻】1週間もそんな感じのイタリアで過ごしましたから「イタリアの野球と日本の野球、どっちが本当の野球なんやろう?」っていろいろと考えたんです。