「何のためにするの?」が多い野球界の慣習

【藤田】野球界っておかしなマナーとか習慣ってたくさんありますよね。挨拶の仕方とかも「そんな挨拶、社会で絶対しないよ!」というような、野球でしか通用しない挨拶をしていたりだとか。

【辻】ありますねぇ。

【藤田】野球を全く知らないうちの妻なんか「なんで野球はみんなで並んで足並み揃えて声を出してランニングするの?」って訊いてくるんです。そう言われると、なんでだろうって僕も思って、明確に答えられなかったんです。「敢えて言うならばみんなで呼吸を合わせて同じことをすることでチームのシンクロ率を高めることによってだな……」としどろもどろで言ったんですけど、「野球って全員で同じ動きすることあるの?」って言い返されて。確かに昔のファミスタみたいに野手全員がみんな同じ方向にボールを追いかけたりすることないよな、とか思ったり。

撮影=株式会社apricot.h、宇田川淳

【辻】昔のファミスタって(笑)。

【藤田】全員で動きを合わせることとかないんですよね。なんでやっているのかよく分からないまま、理由が後付けのような習慣ってありますよね。

【辻】ありますあります! たくさんあります!

【藤田】僕は辻さんの「グラウンドに挨拶はしない」という話が好きなんですよね(笑)。

【辻】だってね、なんでグラウンドにだけ挨拶をするんですか? それだったらベンチにも挨拶して、トイレにも挨拶して、グローブにも、ベースにも、バッティングマシンにも挨拶をして、もうありとあらゆるものに挨拶をしないとダメでしょ? だからやってないんです。

【藤田】面白いなぁ(笑)。でもこの話は示唆に富んでいますよね。野球界では当たり前に行われていることに対して「これってそもそも何のためにやるんですか?」「これって必要なことですか?」っていう問いかけですもんね。

【辻】うちはマシンだけでも13台ありますから、挨拶してまわるのも大変ですよ(笑)。

【藤田】根底にあるのは「グラウンドを子ども達がワクワクするディズニーランドのような場所にしたい」という思いなんですよね。

【辻】そうなんです。うちのグラウンドは滝の宮スポーツ公園にあるんですけど、「滝の宮ランド」って呼んでいますから(笑)。

【藤田】「グラウンドに挨拶はしない」という部分だけを聞くと拒絶反応を起こす野球関係者もいるかもしれないですけど、辻さんのお話を聞いていると納得できるんですよね。だってディズニーランドに行く時、入口で挨拶しないですもんね。

【辻】野球が好きで、野球をするのが楽しくて楽しくてたまらない。グラウンドを、そんな子達がワクワクするような場所にしたいんです。だからそこに礼儀とかマナーとか、そういうものを持ち込む必要はないんです。

【藤田】スペース・マウンテンに乗る時に「お願いします!」って挨拶しないですもんね(笑)。あと

「ばっちこーい!」っていう声出しとかね。あれも何なんですかね? ばっちこーい! って言っておきながらボールが飛んできたらエラーするってどういうことだよ(笑)。

【辻】(笑)。