「余熱で火を通す」という流行レシピは条件を満たさない

ところが、最近流行のローストビーフレシピはどうも、内部の温度が考慮されている気配がありません。

内閣府食品安全委員会が、ブロックの牛モモ肉(約300g、厚さ約4cm、肉の温度は15~23℃)をジッパー付き袋に入れて低温調理し肉の温度の上昇を調べる実験を行い、動画を公開しています。58℃のお湯に入れて温度を維持した場合、肉の内部温度が同じ温度まで上がるのに約100分かかりました。殺菌条件を満たすにはさらに28分間の温度維持が必要です。

出典=食品安全委員会YouTubeチャンネル

肉の内部の温度がこれほど上がりにくいとは、多くの人が思っていないのでは? 流行のローストビーフレシピは、塊肉をジッパー付き袋などに入れて封をし、沸騰したお湯にドボンと漬けて火を消して、その後は鍋に蓋をしてほったらかしにして余熱で火を通す、というもの。湯の温度は最初100℃でも、肉を入れた後に一気に下がるのは自明で、加熱条件を満たせません。

著名な料理研究家のレシピでさえ加熱時間が足りない

塊肉をフライパンで表面を焼いた後にアルミホイルで包み込む余熱利用レシピも目立ちますが、肉の中心部が63℃まで上がるのは容易ではありません。食品安全委員会の調査事業で、厚さ2cmの小さなステーキ肉を焼いた場合の内部の温度上昇を調べたのですが、表裏4分ずつ焼いてやっと加熱条件をクリアしました。

肉の温度は上がりにくく、塊肉ならより一層、時間がかかります。フライパンで作るローストビーフレシピをインターネットで検索してみてください。著名な料理研究家のレシピでさえも加熱時間がまったく足りません。

そもそも、肉の温度変化に言及しないレシピは、信頼に値しないのです。

加えて、多くのレシピは、焼く前に塩胡椒、オリーブオイルを入れて揉み込んだり、フォークで突き刺して中まで味を染み込ませたりしています。もし表面に菌がいたら、内部への菌浸潤を促し、フォークでわざわざ中に押し込むことにもなります。内部まで加熱をしっかりすべきなのに、そんな説明は多くのレシピでありません。