日本の農産物が高級ブランドに育たないのはなぜなのか。レンコン農家で民俗学者の野口憲一さんは「『美味しさ』しかブランド価値のない農産物は長くは続かない。フランスには『テロワール』という考え方が根付き、1000万円で取引されるワインがある」という――。

※本稿は、野口憲一『「やりがい搾取」の農業論』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

シャインマスカット
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的外れな日本政府の農作物輸出政策

2021年8月15日の日本経済新聞に、次のような記事が掲載されました。「日本発ブランド『シャインマスカット』中韓の生産、日本上回る」。記事によると、高級ブドウ「シャインマスカット」をはじめ、日本発のブランド品種の海外流出が深刻さを増している、というのです。

しかも、流出先の韓国ではシャインマスカットが今や輸出の主力となり、輸出額は日本の5倍に膨らみ、中国国内での栽培面積は日本の40倍超に及ぶということです。さらに「19年には日韓のブドウの輸出数量が逆転した。21年1〜4月の韓国産ブドウの輸出額は約8億円と前年同期比で1.5倍に増えた。このうちシャインマスカットが約9割を占めた。日本の輸出額は1億4700万円にとどまり、量では7倍の差がついた」とのことです。

日本政府は20年に種苗法を改正(21年4月施行)し、海外への種子や苗の持ち出しを禁止する法律を作り、違法持ち出しに対しては罰金や懲役刑を科すことにしましたが、時既に遅し、ということなのでしょう。

しかも、桃栗三年柿八年というように、そもそも樹木が商品価値を持った果実をつけるまでには一定の時間がかかります。イチゴのような一年生植物でもない限り、21年4月施行の法律で実効性が伴うはずがないので、後手に回った対策の遅さを嘆くしかありません。

しかし、私はこの点に日本産農作物輸出政策の抱える問題の本質があるとは考えていません。確かに種の海外への違法持ち出し自体は重大な問題です。このような行為は徹底して取り締まるべきでしょう。しかし私は、このような日本政府の「最先端」であるはずの政策があまりに時代遅れ、というか見当違いであるように思えてならないのです。