※本稿は、野口憲一『「やりがい搾取」の農業論』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
「チョコレート」という商品名のチョコはない
農産物の話に入る前に、別の食品の販売方法についてお話しします。まずお菓子売り場を思い出してみてください。お菓子売り場では、チョコレートはどのようなパッケージや商品名で販売されているでしょうか? 中身が完全に透けて見える包装形態で販売されているお菓子がどれくらいあるでしょうか? 透明な包装紙で販売されている食品と言えば、麩菓子などがあるかもしれません。しかし、昭和の代表的な駄菓子である黒糖をまぶした麩菓子を、スーパーやコンビニの店頭で見かけることは少なくなっています。
また、チョコレートが「チョコレート」という単一商品で、グミが「グミ」という単一商品として販売されている売り場は存在するでしょうか? そんなところは存在しない。チョコレートやグミには、商品分類とは別に必ず商品名が書かれているはずです。
商品名だけではありません。例えばブドウのグミであれば、メーカーやブランドのロゴ、瑞々しいブドウのイメージ写真、キャッチコピー、ブドウ果汁を何パーセント使用したかといったような成分構成まで、様々な情報が書かれています。消費者は単にグミをグミとして消費しているのではなく、このような情報をセットで購入しているのです。
野菜に保証されているのは商品性と生産地だけ
しかし、そういった売り方は野菜では必ずしも一般的ではありません。そもそも商品名を付けて売られていないことが大半です。ほとんどのキュウリは「キュウリ」として、玉ねぎは「玉ねぎ」として販売されているからです。
もちろん、野菜にもこういった情報が全くないかというと、そういうわけではありません。例えば野菜には生産地表示やJAマーク等が存在します。JAは日本農業協同組合のロゴですが、消費者に一種の安心感をもたらす記号として機能しています。しかし、他の商品と比べれば、消費者に提供している情報量が圧倒的に少ないことは否めません。
そもそもキュウリや玉ねぎ等は、袋に小分けされて販売されることが一般的です。その袋は透明で、商品情報は何も書かれていない。それどころか、生産者から届いた箱のままでばら売りされていることもよくあります。このような単なる透明袋で販売されている野菜において保証されているのは、玉ねぎやキュウリであるという商品性と、生産地だけです。食品であるにもかかわらず、美味しささえ保証されていないのです。