衝撃的な内容だけに、放送直後からネットでは「五輪反対運動をおとしめるもの」などと炎上、抗議が相次ぐ大騒動になった。
そうこうするうちに、年が明けた1月9日、番組を制作したNHK大阪放送局の堀岡淳局長代行が「当該男性が五輪反対デモに参加した事実は確認できなかった」として、「字幕の一部に不確かな内容があった」と謝罪した。「虚偽放送」だったことを認めたのである。
番組を制作した大阪放送局によると、男性の発言は、実際には「過去に(五輪以外の)デモに参加したことがあり、金銭を受け取ったことがある」「今後、五輪反対デモに参加しようと考えている」と、字幕とはまるで似て非なる内容だったという。
事実と異なる字幕が入った原因については「制作担当者が、男性が五輪反対デモに参加したと思い込み、事実関係を確認しなかった」と釈明した。まったく裏付け取材をしていなかったのである。にもかかわわらず、「捏造の意図はなかった」と強調した。
「謝罪すれば、それで十分」という姿勢だったが…
だが、単なる「思い込み」で片づけるには、事態はあまりに深刻で、一放送局の一局長代行の謝罪で幕引きとはならなかった。
NHKの前田晃伸会長は13日の記者会見で、「チェック機能が十分に働かなかった。率直に言って、非常にお粗末」と陳謝する羽目に。
一方、角英夫・大阪放送局長も同じ日の記者会見で、「報道機関として最も守るべきことができていなかった」と自省したが、あらためて「捏造や、やらせではない」と強弁。さらに、「視聴者は男性が五輪反対デモに参加したと受け取るのが自然だ」と指摘されても正面から答えず、追加調査や番組の検証にも応じようとしなかった。
「謝罪すれば、それで十分」という姿勢が露骨に見られ、とてもコトの重大性を認識しているようには見えなかった。
NHKの迷走は、さらに続く。
19日に、正籬聡放送総局長の記者会見で、NHK内の番組チェックの経緯について、試写段階で番組のプロデューサーが、取材したディレクターに字幕の内容の確認を指示したところ、ディレクターは「島田さんに確認した」と報告、プロデューサーは問題の字幕も確認済みと認識した、と説明した。
迷走に次ぐ迷走で、やっと調査チーム設置
ところが翌20日、責任の一端を担わされた形になった島田さんが「ディレクターからの確認はなかった」と反論、「NHKの経緯説明には誤りがある。大変憤慨している」と抗議、訂正を求めた。
あわてたNHKは24日になって、一転して、字幕の内容は男性本人はおろか島田さんにも確認しておらずディレクターが虚偽の報告をしていたと表明、19日の経緯説明を「誤解を与えた」として全面撤回した。