NHKは、「過剰な演出や誤解を与える編集があった」と認め、記者ら15人の大量処分をしながらも、「やらせ」や「捏造」という言葉を使うことには、最後まで抵抗した。
今回の「字幕事件」は、国を挙げてのビッグイベントで国民の大きな関心事となった東京五輪がテーマだけに、影響は「クローズアップ現代」の比ではない。
NHKが火消しに躍起になればなるほど、「捏造疑惑」が燃え上がるという負のスパイラルに陥っている。
「何か意図的なものがあったと疑わざるを得ない」
次に、②について。
NHKとして、五輪反対運動をおとしめようとする意図があったとは、まだ言い切れない。担当ディレクターが、なぜ事実を歪曲して字幕を入れたのかが、いまだ判然としないからだ。
だが、結果として、「カネで買われた五輪反対デモ」を視聴者に印象付けて五輪反対派を誹謗中傷したことになったのだから、その罪はきわめて重い。
五輪開催に反対する団体は「反対運動に参加した多くの人の名誉を棄損した悪質な番組」「デモの参加者はカネで動員されているというレッテル貼り」「五輪に反対する人々の思いを踏みにじった」と憤り、NHKに抗議したというが、当然だろう。
もともと、NHKは、五輪礼賛の空気が局全体を覆っていて、反対運動には冷ややかだったといわれる。このため、反対運動の理不尽さを訴え、五輪支持を広げる世論操作に走ったと推測する向きもあるようだ。
影山貴彦同志社女子大教授は、1月14日付毎日新聞に「NHKの側に何か意図的なものがあったと疑わざるを得ない。視聴者が、五輪反対デモはお金をもらえるからやっている、いかがわしいものだと感じる恐れがある。
中立であるべきメディアが、世論を二分したオリンピック開催の賛否について、視聴者を賛成の方向に誘導しようと受け止められても仕方がない」とコメントを寄せている。
NHKは、「字幕事件」の真相を「担当ディレクターの思い込み」と矮小化し、「捏造や意図的な編集はなかった」と繰り返しているが、はたして素直に受け止める人がどれだけいるだろうか。
チェックシステムはザル以下
③のチェック機能が働かなかった問題については、実に不可思議な点が多い。
「クローズアップ現代」の「やらせ疑惑」の反省から、NHKはさまざまな再発防止策をとったはずだった。
一例を挙げれば、担当外の職員が複数参加して放送前の番組を確認する「複眼的試写」の実施や、匿名で放送する必要性を判断する「匿名チェックシート」の導入を、すべての番組で行うとしていた。
ところが、今回の「字幕事件」では、いずれの防止策もほとんど機能しなかった。