開いた口がふさがらないというのは、こういうことか。責任のなすりつけ合いは、醜悪にさえ見える。NHK内で、問題の番組をめぐる基本的な情報さえ共有されていないことが露見してしまった。

そして、ついに同日、NHKは、「字幕問題」の原因や背景を正確に把握するため、松坂千尋専務理事を責任者とする「BS1スペシャル調査チーム」を立ち上げた。当初は「大事に至らず」とタカをくくっていたようだが、度重なる失態と厳しい追及を受けて、やっと重い腰を上げたのである。

この間、BPOの放送倫理検証員会は、NHKに対し、番組の制作過程などについて、文書で報告を求めることを決定、審議入りに向けた準備を始めた。小町谷育子委員長(弁護士)は「頭の中に疑問符がいっぱい」と、疑念を隠さなかった。

NHK
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「捏造」と断定されても仕方がない

「カネで買われた五輪反対デモ」と虚報を報じた「字幕事件」は、さまざまな論点が指摘される。

①問題になった字幕は「捏造」と言えるのか
②五輪反対運動をおとしめようとする意図があったのか
③番組のチェック体制はなぜ機能しなかったのか
④真相究明はNHKに任せられるのか
⑤河瀬直美総監督はNHKが謝罪するまでなぜ沈黙していたのか
などなど。

順番に、①から検証してみる。

番組制作の過程はともかく、当該男性の発言と番組の字幕は似て非なるもので、事実を歪曲わいきょくして放送した以上、「捏造」と断定されても仕方がない。「不確かな内容」とか「誤解を与えた」とか、言葉をもて遊んでいる場合ではない。もはや「捏造」という言葉の解釈論ではない状況を直視すべきだろう。

メディアの報道も、大半が批判的で、NHK擁護論はほとんど見当たらない。

元BPO委員の服部孝章・立教大名誉教授は「取材で確認できていない内容を字幕にしたという点で、事実上の捏造にあたると考えられる。NHKは問題を矮小わいしょう化せずに、徹底的に自己検証すべきだ」(1月14日付朝日新聞)と厳しい。

「やらせ」「捏造」…“2つの言葉”に最後まで抵抗した過去

NHKの「捏造疑惑」といえば、思い起こされるのが14年5月14日に放送された報道番組「クローズアップ現代」の「追跡 “出家詐欺”~狙われる宗教法人~」の「やらせ疑惑」。

多重債務者が出家して戸籍名を変え、債務記録の照会を困難にする「出家詐欺」を特集したが、匿名で詐欺に関わるブローカーとして紹介された男性が「NHK記者の指示で架空の人物を演じた」と証言した「事件」である。