「ヤングケアラー」とは、家族の介護やケア、身の回りの世話を担う18歳未満の子供のこと。国の調査では3万人以上いると推計されている。そこにはどんな現状があるのか。毎日新聞取材班『ヤングケアラー 介護する子どもたち』(毎日新聞出版)より、中学1年生のときから母親のケアを担った女性のケースを紹介しよう――。
中学1年の時に母からビンタを受けた少女
母を殺したい。
中学1年の時に母から受けたビンタが全ての始まりだった。
マドカ(仮名)は好物のアイスを食べ終わり、使い捨てのスプーンをごみ箱に投げ入れた。ただそれだけのことで、母が突然マドカのほおを張った。
「えっ、なんで? なんで?」しかられる覚えはなく、ぼうぜんと立ち尽くした。
母は44歳でマドカを産んだ。父はマドカが10歳の時に病で亡くなり、仙台市で2人暮らしになった。社交的な母は自宅にママ友を招いたり、陶芸、パン作りを教えたりしていた。家には多くの人々が出入りした。
その母の異変は「アイス事件」だけでは終わらなかった。
マドカが洗濯物を干したそばから、どうしてか母が取り込んでしまう。乾いてないのに何をしてるの? 「やめて」と母に言った。今度は往復ビンタが飛んできた。母は、言いたいことをうまく言葉にできなくなっているようだった。そして日常的に娘に暴力を振るった。
ある日、母はものすごい勢いでマドカを罵った。
「あんたなんか人の子じゃない、鬼の子だ!」
お母さんの子だよ、とツッコミを入れるとまた殴られた。
ある日は殴る蹴るした後、泣いているマドカに、母はきょとんとして「どうしたの?」と尋ねた。
マドカは反発した。深夜まで母と罵り合い、殴られる日々が始まった。お互いに力尽きると電池が切れたように眠る。毎日その繰り返しだった。次第に母は身の回りのことができなくなった。焦げた食事を出され、「これ、食べるの?」と聞くと殴られた。
マドカは洗濯や買い物、食事の準備を手伝った。ポン酢をかけたうどんか、冷凍食品のドリアばかりだったような気がする。別居している姉が心配しておかずの作り置きをしてくれた。ありがたく少しずつ食べた。