地位・関係性を悪用すれば、形式的な同意を取り付けられてしまう
実際、最近はどんどん事件が表面化してきています。
○ 2018年11月30日、最高裁第3小法廷は、勤務していた栗田病院(長野市)で当時15歳の女性患者に対して「産婦人科の検査をしないと退院できない」などとうそを言い、体を触るなどして準強制わいせつの罪に問われた精神科医の上告を棄却し、懲役2年が確定した。
○ 2018年12月6日、診察中の女性患者にキスなどをした強制わいせつの疑いで、警視庁は都内の精神科クリニック院長を逮捕した。警察や保健所には複数の被害相談が寄せられていた。過去にも患者に対するわいせつ事件を起こして書類送検となっていたが示談が成立して不起訴処分となっていた(不起訴となり、1カ月後には診療再開)。
○ 2020年5月23日、女性患者にわいせつな行為をしたとして、兵庫県警尼崎北署は、強制わいせつの疑いで精神科クリニック院長を逮捕した。診療中の20代の女性患者の体を触るなどのわいせつな行為をした疑い。院長は「そのような行為をしたことは間違いないが、以前に付き合おうと言ったらうなずいたので、交際中だと思っていた」と、容疑を否認。一方、被害女性はその事実を否定し付き合いはなかったと主張(後に不起訴)。
○ 2020年7月1日、厚生労働省は、都道府県・指定都市に依頼した「精神科医療機関における虐待が疑われる事案の把握に関する調査」の結果を公表した。過去5年間(2015〜19年度)に全国で72件の虐待が自治体で把握され、7件は性的虐待であったことが判明した。
○ 2020年10月27日、神出病院(神戸市)において入院患者に虐待を繰り返していたとして、6人の職員が準強制わいせつや暴行、監禁などの罪に問われた事件で、全員の有罪(3人が実刑、残り3人は執行猶予付き)が確定した。
○ 2021年1月29日、厚生労働省は医師の行政処分を発表し、診療報酬を不正請求して詐欺罪が確定していた精神科医に対する医業停止3年の処分を決定した。主治医の立場を悪用し、複数の患者と性的関係を持った行為(うち2人は自殺)について、遺族らが医師免許剝奪を求めていたが、その点は行政処分に考慮、反映されなかった。
○ 2021年2月18日、診察中の20代女性患者に無理やりキスをしたとして強制わいせつに問われた精神科医に対する控訴審判決公判が高松高裁で開かれ、懲役1年6月、執行猶予4年の判決が言い渡された。
○ 2021年3月1日、心理カウンセリングの利用者にわいせつな行為をしたとして、岐阜県警は準強制わいせつの疑いで、東海学院大学元教授の心理学者を書類送検した。元教授はカウンセリング利用女性の自宅を訪れ、治療の一環と信じ込ませて体を触るなどのわいせつな行為をした疑いが持たれている。
○ 2021年9月22日、患者である女子中学生にわいせつ行為をした疑いで児童福祉法違反に問われていた、産業医科大学病院で思春期外来の医長を務めていた児童精神科医に対し、福岡地裁小倉支部は懲役3年、執行猶予4年を言い渡した。
患者を性的に搾取することなど倫理的に許されることではありませんが、犯罪の要件を満たさなければ犯罪にはなりません。そもそも受診した時点で患者は悩みを抱えています。その患者の弱みにつけ込み、地位・関係性を悪用すれば、形式的な同意を取り付けることなど精神科医にとっては赤子の手をひねるようなものです。そのため、暴行・脅迫をともなわない性行為に見せかけることが可能となるのです。
ですから、精神医療の現場で横行している性暴力を止めるためには、性犯罪として取り締まれるように刑法そのものを変えるか、医師法第7条を正しく運用させるしかありませんでした。