精神医療の現場では患者への性暴力にどう対処しているのか。精神医療現場における人権侵害の問題に取り組む米田倫康さんは「厄介なのは、必ずしも犯罪として取り扱えないことだ。地位や関係性を悪用すれば、形式的な同意を取り付けることが可能になってしまう」という――。

※本稿は、米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

暗い病院の廊下
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まったく手つかずだった精神科医による性暴力問題

向精神薬の処方規制に向けて、我々はかなりの労力をかけて取り組んで来ました。ようやく一部実を結びましたが、決して我々のみの手柄とは言いません。多くの団体、専門家、マスコミ、国会議員、個人がこの問題について声を上げ、実現を後押ししてくれました。

一方、完全に私がゼロから作り上げているものもあります。それは、精神科医による患者への性暴力問題の規制です。今まで成し遂げられたものはごくわずかであり、十分な規制に至るまでの途上にすぎないのですが、1を100にすることよりも、何もないゼロの状態から1を作り出すことのほうがはるかに困難です。

これは本当にゼロから始まりました。昔から、精神医療現場では性暴力が横行していましたが、世間にはほとんど知られていませんでした。そもそも性犯罪自体が表面化しにくいという日本の風土に加えて、精神科特有の閉鎖性があること、被害者に被害の自覚がないこと、患者への偏見があって被害者の声が届かないこと、そもそも心を病んで受診した患者には事件化への負担が大きいことなどが主な理由です。

精神科医はその立場や専門的知識、向精神薬を悪用すれば、いとも簡単に患者を性的に搾取することができます。厄介なのは、これが必ずしも犯罪として取り扱えないことです。もちろん、現行法で問えるような性犯罪(図表1)については、たとえ加害者が精神科医や心理士であったとしても刑事事件の対象となります。