精神医療では、患者を囲い込んで儲ける悪質な現場がある。精神医療現場における人権侵害の問題に取り組む米田倫康さんは「たとえば精神科デイケアでは、10年以上も麻雀をさせるだけという現場があった。これでは社会復帰にはつながらない」という――。

※本稿は、米田倫康『ブラック精神医療 「こころのケア」の不都合な真実』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

病院の廊下
写真=iStock.com/sudok1
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素人同然の精神科クリニックが乱立

うつ病キャンペーンの成功により、精神科、心療内科の開業ラッシュが起きました。商機と見るや、次々と畑違いの医師からの新規参入も増えました。この異常な開業ラッシュの原因となったのは以下の要素です。

・初期投資が少ない(極端な場合、机と椅子さえあればよい)
・目立たない雑居ビルの一角が来院者に好まれるので一等地である必要がない
・適当な診断と投薬でも成り立つので医師の能力を必要としない
・訴訟リスクが少ない(患者側が誤診や医療ミスを証明するのは困難)
・医師免許さえあれば誰でも精神科医や心療内科医を標榜できる
・調剤薬局関連会社が先に施設を作ってそこに雇われ院長を据えるというビジネスモデルが広がる

雨後の筍のように乱立した精神科、心療内科クリニックの質はひどいものでした。つい先日まで産婦人科医や眼科医だった医師が、突然精神科クリニックの院長となってうつ病診断や投薬をするというような話は普通のことでした。では、古参の精神科医や、精神保健指定医あるいは専門学会の専門医の資格を持っている精神科医の診療の質は高かったのでしょうか? 私はそれに対しても心の底から「NO!」と叫びたいです。

むしろ、にわか精神科医よりも、大学病院の精神科や精神科病院での実務経験を積んでいた精神科医こそ、躊躇なく安易な診断や多剤大量処方をしていたというのが私の印象です。精神科病院の入院患者に対して、ただ管理しやすくする目的で過剰に投薬してきた経験がそのまま反映されていたのでしょう。

あくどい精神科クリニックは、処方する薬で意図的に患者を薬物依存に陥らせ、頻回に受診させるという、麻薬売人も真っ青な手口で患者を囲い込みました。そのようなクリニックでは無診察処方という違法行為など当たり前でした。秒単位で診察を終わらせる「秒察」というグレーゾーンの行為も頻発していました。薬物依存に陥った患者は薬さえもらえたらよいという思考に陥るため、患者にとってもありがたいことでした。

しかし、それは新たな形態の薬物汚染そのものであり、保険診療や福祉制度を崩壊させ、人々の平穏な生活を脅かすレベルにまで悪影響をもたらすものでした。