社会問題となった「リタリン中毒」

2005〜08年あたりには「リタリン中毒」が大きな社会問題となりました。リタリンとは、メチルフェニデートを成分とする中枢神経刺激薬の商品名であり、海外では主にADHD(注意欠如・多動性障害)に対して処方されていました。

日本では特別にうつ病に対して処方されていましたが、覚せい剤に類似し、即効性があって多幸感が得られるため、劇的な効き目があると患者が錯覚しやすく、依存しやすいことが問題になりました。特定の精神科クリニックで安易にリタリンが処方された結果、多くの若者がリタリン中毒に陥り、リタリンを求めて処方箋偽造や薬局への強盗、違法売買などが頻発するようになったのです。

薬を簡単に出してくれる精神科クリニックには患者が列をなし、たった一人の医師である院長が、1日で300人の患者を診る(実際にはほとんどが無診察処方)という状況でした。

2000年代前半は、無診察処方など普通のことで、クリニック受付に「薬だけの患者さんはこちら」などと堂々と表示を掲げているところすらありました。今ならすぐにSNSにアップされて炎上する案件ですが、当時はまるで厳罰化前の飲酒運転のように、どこでもやっているという状況でした。

問診する医師
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「秒察」や無診察で、たった1日で100万円以上荒稼ぎ

さすがに看過できなくなったのは、リタリン中毒という健康被害が各地で発生したことに加え、通院精神療法が無節操に算定されるようになったためです。通院精神療法とは、精神科クリニックにとって主な収入源となる保険診療です。1回につき高額な医療費(1998〜2003年度は3920円、2004〜05年度は3700円、2006〜07年度は3600円)が算定できるのですが、1日に200人や300人も一人で診るような精神科クリニックが、たった1日で100万円以上荒稼ぎすることができたのです。

しかし、「精神療法」と名のつく通り、本来の通院精神療法は「秒察」や無診察で算定できるはずがありません。実際、通院・在宅精神療法では「精神科を担当する医師(研修医を除く)が一定の治療計画のもとに危機介入、対人関係の改善、社会適応能力の向上を図るための指示、助言等の働きかけを継続的に行う治療方法」と定義されています。

さすがに通院・在宅精神療法の無節操な請求が目に余ったため、厚生労働省は2008年度から「診療に要した時間が5分を超えたときに限り算定する」と時間要件を新たに設けました。時間で縛りを設けるなんて非科学的だ、などと精神科クリニック関係者からは大きな不満の声が上がりましたが、そうでもしない限り、有限で貴重な社会保障費が一部のデタラメ精神科クリニックに食いつぶされるのを防ぐことができませんでした。

私は、2006年頃からマスコミや行政機関、国会議員らと協力し、デタラメな精神科クリニックの違法行為(無診察処方、医師法違反、不正請求、麻薬および向精神薬取締法違反など)を徹底的に暴き出しました。その結果大きな社会問題となり、これらの無法状態に規制が入るようになりました。