ルックスではなくレースのための改造
その車に乗ってウィロー・スプリングスに初出場した。レースに夢中になるあまり、次々と車に改造を加え、よりよい結果を残そうとしていたのだ。格好つけようと思って改造をしているわけではない。きっかけはあまり手を加えていない車で大会に出場し、スピードが必要だと痛感したことだった。そこでパフォーマンス向上のための改造を始めた。おおむねサスペンションやブレーキ、ハンドルやタイヤの質といったところだ。
ポルシェ・オーナーズクラブ主催のより大きな大会に出るようになると、安全に関する規則をあれこれ守らなければいけなくなった。そこで対策として200ドルでMOMOの安いバケットシートを買い、5点式のシートベルトと消火器を積み込んだ。安全第一というわけだ。
71年型はスモッグチェックが導入される前の時代の産物で、つまり触媒コンバーターがついていなくてもよかった。それが初期のポルシェの長所のひとつだ。いつも言うように、あらゆるパーツが交換可能なのだ。3.6リットルのエンジンを入れたとしても、76年の排気量の規制以前に作られていたおかげで、スモッグチェックのテストを受ける必要はなかった。
さっきも言ったように、スタイルやルックス重視の改造というわけではない。あくまで大会でよりよい成績を残せるように、いろいろ工夫していたのだ。ストリートカーからトラックカーに移行する段階だったが、それでも277は俺にとってストリート対応可のトラックカーで、サーキットまで運転していって戻ってくることができ、道路交通法には違反していないのだった。
最初の2年ほど、車のナンバーはポルシェ・オーナーズクラブからランダムに与えられた731だった。のちに幅広のリムを取り付け、車高を下げて、サスペンションに手を加え、分厚くて重いトーションバーに替え、スピンドルをつけた。アグレッシブなストリート対応のトラックカーができあがった。
277という数字に深い意味はない
2004年頃には、ブルモスのリバリーを塗装した。ブルモスは大のひいきのレーシングチームであり、車のディーラーで、50年以上もこの業界で生き延びている。そのチームのナンバーワンのドライバー、ハーレー・ヘイウッドはデイトナで5回、ル・マンで3回優勝している。
のちに俺はヘイウッドと対面するが、目の前に伝説の男が立っていると思うと、夢でも見ているのかと頬をつねりたくなった。そこで277の色合いはブルモスに似せた。もちろんブルモスの赤白青のリバリーはアメリカという国、エベル・ナイベル、本書に登場するさまざまなものへの愛着のあらわれでもある。
理由はよくわからないが、途中でポルシェ・オーナーズクラブは新しいナンバーをよこした。正確には、好きなナンバーをつけていいという話で(既に取得されていなければ)、7の入った桁の少ない数字が欲しいと思った。1967年7月7日生まれだからだ。よく周りには訊かれる。
「277とはどういう意味なんだ。何か理由があるのか?」
本気で意味があるわけではない。桁が少なくて、7が入っているというだけだ。007ならパーフェクトだったが、もちろんそのナンバーは誰かが取得済みなのだった。