その車で積み上げたマイルや時間は特別
時々277には、改造以外の理由で作業を求められる。2015年、ある記者会見に参加していたときジャーナリストを乗せて走っていたら、スピンしてトラックにぶつかってしまった。本当かと言われそうだが、車で事故を起こしたのはそのときが最初で最後だった。俺はとっさに「同乗者は無事だろうか」と思った。幸いなことに何ともなく、俺もかすり傷ひとつ負わなかった。
車への打撃は大きかったが、運よくぶつかったのはロールバーで、おかげで衝撃がだいぶ分散された。たいていの人間なら廃車にしてしまっただろう。俺は保険会社に連絡すらしなかった。自分で金を払った。事故からまもなく、修理した車をレンスポート・リユニオンに持っていくと、口々に言われた。
「まさか同じ車のわけがないだろう」
俺は言った。「いやいや、同じだ。ここへ乗ってきたのさ。277だよ」車はクラッシュ以前の状態に復活していた。語り草がひとつ、思い出がひとつ増えたというわけだった。
277は俺の「普段使い」の車で、一番馴染みが深く、世間にも俺の車として一番よく知られている。改造のおかげで名前が売れるようになってから、この車はあらゆる動画や雑誌、ウェブサイトに登場している。俺と一心同体なのだ。ある意味で、車そのものがセレブだ。
あるとき東京で行われたポルシェのイベントに参加してみると、そこには277を細部に至るまで再現したという男がいた。277のレプリカが10台以上並んでいた。オンラインで車を設計するバーチャル世界の話ではない。本物の277と瓜二つの車があった。
ちょっと皮肉なのは、実は俺の特徴的なスタイルがあまり反映されていない点だった。ルーバー付きのデックリッドを除けば、ウィンカーもフェンダーもフードもドアハンドルもない。277はそれ以前の車だからだ。車が誕生したのは、俺が改造ポルシェを作るようになる以前のことだった。
繰り返しになるが、277はパーツのレベルでは特に言及に値するものでもない。だがその車で積み上げたマイル、時間、感情、物語、車に乗せた友人たち、ハンドルを握って作った思い出は特別だ。ある意味では象徴的な車だったといえるだろう。かけがえのない車だ。