農家の収入増で新規投資も

しかし何よりも大きなメリットは、売価が上昇し、販売量も増加したことで、下妻市の梨農家の収入が増え、人々の意識が変わったことです。地域の農業を持続可能に発展させていくには、農家の「やる気」が欠かせない要素です。

それまでは、下妻市の梨農家の間でも高齢化が進んでいたため、梨の苗木を植える新規投資をそれまでしばらく控えていたそうです。しかし、この成功を受けて可能性の実感が広がり、一転して新たに1000本以上の苗木が購入されました。

さらには、それまで大きな課題となっていた後継者問題にも光明が見えてきました。下妻市の梨園が伸びていると情報発信し続けることで、市外の若者が就農のために移り住んで来たのです。まだ2人だけだそうですが、高齢化の一途を辿っていた頃と比べれば、大きく前進しているといえます。

このように、日本の農業に明るい先行きを見通すことができれば、農業をやりたい若者はいくらでも出てくると思います。下妻市の事例を間近に見てきて、海外展開という選択肢は農業経営のツールの一つとして、さまざまなメリットをもたらすものだと感じました。

「ファーストペンギン」が次の時代を作っていく

地域活性化の手段の一つとして海外展開の可能性を述べてきましたが、海外展開を成功させる上で何よりも重要なのは、ノウハウやコツを知っていることではなく、その地域に住む人々の強い情熱だと思います。

西川壮太郎ほか『グローカルビジネスのすすめ』(紫洲書院)

先にご紹介したJA常総ひかりの場合は、輸出プロジェクトを牽引した上野課長の情熱が原動力となりました。私も含めて、周囲の皆が上野課長の熱意に突き動かされて、彼が進む道を後ろから追いかけていたら、いつのまにか地域を変える大きな事を成し遂げていた、というのが実感です。

地元を変えていくためには、誰かが最初にリスクを取って、これまでやってこなかったことに挑戦しなければなりません。これがいわゆる「ファーストペンギン」です。海には危険なシャチが泳いでいるかもしれないので、最初に飛び込むのは大変勇気のいることです。

しかし、そのファーストペンギンたちのおかげで、次の時代が作られていくのも事実です。幸運にも、人や情報の行き来が盛んになった現在では、手に入る情報の量も質もかつてと比べ物になりません。グローカルビジネス化の成功例も徐々に増えつつあります。

そのような中、一人一人が、自分の所属する会社や業界で小さなファーストペンギンとなって飛び込めば、世の中は大きく変わっていくと思います。私も、そのように、小さいながらもファーストペンギンでありたいと思っています。

関連記事
「ワイン離れが止まらない」フランス人がワインの代わりに飲み始めたもの
本田宗一郎がホンダ社長を引退してから2年半をかけて日本全国でやっていたこと
「20代30代が逃げていく」観光都市世界一・京都が陥った"破産危機"の真実
「若手ほど次々に辞めていく」憧れの職場だった鉄道会社が、斜陽産業の筆頭になりつつあるワケ
「20代の4人に1人は、あえて飲まない」ビール離れに挑むアサヒビールの"新提案"