業界の垣根を越えた「MaaS」での連携

さらに一歩踏み込んで、業態を超えた新たなサービスの展開も苦境打開の有効策となる。海外で進む次世代移行サービス「MaaS」の普及・強化だ。

国交省は航空機の出発から到着までの運航データを民間事業者に公開する方針だ。これはすでに欧米では実施されている。その狙いは、鉄道やバスの乗り継ぎなどを含めた移動サービスの向上や新たな事業開発だ。

国内勢が参考にしているのはドイツだ。独ルフトハンザは航空と鉄道、さらには路線バスやレンタカー会社と連携して、目的地までの最適な経路の一括検索や予約ができるサービスを展開している。独SAPグループや米コンカーも出張者や旅行者向けの旅程管理アプリを提供。利用者は航空機やホテルの予約メールをアプリで転送するだけで、現地の交通手段や飲食店などの情報を得られる。2007年から始めたこのサービスの世界の利用者数は1700万人に上る。

※写真はイメージです。(写真=iStock.com/Nate Hovee)

こうした動きに触発される形で全日本空輸(ANA)も22年度にも航空機と鉄道など地上交通を組み合わせた経路を検索し、一括で予約できるシステムを導入する。日本航空(JAL)もJR北海道やJTBと連携して北海道観光の商品企画や運航サービスを手掛ける取り組みを10月から始めるなど、業界の垣根を越えた連携策が出てきた。

「水と油」を言われた阪神と阪急も統合できた

JRや私鉄各社は傘下に百貨店やスーパーなどの小売りやホテルなどを抱える。東武鉄道なら銀座を拠点とする松屋グループや東京スカイツリー、京成電鉄は東京ディズニーランド・ディズニーシーなどのテーマパークをもつ。西武ホールディングスは全国各地に持つプリンスホテルの売却を含めた再建策を検討、今後はホテルの運営に特化する方向だが、航空会社や旅行各社との運航データや顧客情報の共有を通じて、新たなサービスの発掘による旅客・観光需要の掘り起こしは可能だ。

かつて日本旅行と近畿日本ツーリスト(現・KNT-CTホールディングス)が親会社のJR西日本や近畿日本鉄道が主導する形で統合する計画があったが、両旅行会社の反発を受け、頓挫した。私鉄はオーナーやそれに連なる人脈が経営トップにいるため、再編が進みづらい。しかし、東急は創業家である五島家が、西武では堤家が、バブル時代の不良債権の処理や不祥事で経営からそれぞれ身を引いた。

阪急百貨店やパレスホテル、さらには東宝や宝塚歌劇団を持つ阪急も、「水と油」を言われた阪神と、投資家や市場からの圧力に屈する形で経営統合した。