政府は、今年度中に大学ファンドの運用を始める。研究費や人材育成にかかる資金を捻出するのが目的で、10兆円規模を目指すという。運用担当理事は農林中央金庫出身の喜田昌和氏だ。なぜ農林中金から選ばれたのか。経済ジャーナリストの森岡英樹さんが解説する――。
東京都千代田区にある農林中央金庫の本店
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京都千代田区にある農林中央金庫の本店

10兆円規模の巨大ファンドが動き出す

公的な資金運用の担い手として農林中央金庫(農林中金=農中)の存在感が急速に高まっている。

まず注目されるのが10兆円規模を目指す政府の大学ファンドだ。同ファンドは今年度中にも運用を開始する方針で、今秋以降、運用委託会社の選定に入る予定だ。この動きに呼応するように「信託銀行、大手運用会社などがファンド受託に向け目の色を変えている」(市場関係者)という。

政府の大学ファンドは、欧米の大学に比べ研究力や専門人材が低下している日本の大学を資金面からバックアップするのが狙いで、科学技術振興機構(JST)の下に設置され、基本設計が今年7月27日に公表された。

資産規模は当初4兆5000億円からスタートし、「大学改革の制度設計等を踏まえ、早期に10兆円規模の運用元本にまでもっていく」(内閣府)という。すでに種銭として政府出資5000億円(2020年度第3次補正予算)、財政投融資4兆円(2021年財投計画)が措置されている。

欧米の主要大学のファンドは巨額な資金を運用し、その果実を大学運営に活かしている。例えば、ハーバード大学の約4兆5000億円はじめ、イエール大学約3兆3000億円、スタンフォード大学約3兆1000億円、ケンブリッジ大学約1兆円、オックスフォード大学約8200億円(いずれも2019年数値)を運用している。

「年3%の運用成果」と目標は高いが…

日本の大学もそれぞれ単独で資産運用しているが、最も積極的な慶応義塾大学でも730億円で、東京大学は150億円にとどまる。欧米の有力大学に比べ、その規模は大きく見劣りする。このため国が音頭をとって官製大学ファンドを創設して、その差を埋めようというわけだ。

しかし、危うさもつきまとう。「具体的な運用はJSTの最高投資責任者(CIO)が担い、消費者物価上昇率に3%上乗せする運用を目指す」(関係者)という。この世界的な超低金利下にあって年3%の運用成果を上げるのは容易なことではない。ちなみに世界最大級の年金基金であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は賃金上昇率プラス1.7%が目標だ。いかに大学ファンドの運用目標が高いかが分かる。

このためポートフォリオ(運用資産構成)では、国内外株式の割合を債券よりも高くし、高いリターンを得られるように工夫するほか、将来的には未公開株に投資するプライベート・エクイティ(PE)も増やすことを検討している。

だが、高い運用成果を上げるためには運用のリスク度を引き上げないといけないが、果たしてうまくいくのか。また、運用に失敗した場合、誰が責任を取るのかなども問題となる。いずれにしても種銭は国民が提供したものである。大学ファンドの裏付けは税金であることを忘れてはならない。