注目される運用担当はどんな人物?
この大学ファンドの運用を担う担当理事(CIO)に就いたのは、農林中央金庫出身の喜田昌和氏(1992年京大経済学部卒)だ。喜田氏は開発投資部や投融資企画部など、農林中金で運用の中核ポストでキャリアを積んだ。2017年のオルタナティブ投資部長を経て、2019年4月に常務執行役に就いていた。ベンチマークとなる市場利回りを凌駕する高い運用利回りの実現を目指すJSTにとってまさにうってつけの人材と言えよう。
政府は7月27日に、大学ファンドに関する有識者会議を開いて、ファンドの基本ポートフォリオ(資産構成)について、国内外の上場株式が65%、国内外の債券が35%と決めた。同じ公的な年金資金を運用するGPIFの基本ポートフォリオは国内外株式がそれぞれ25%、国内外債券が各25%であるのと比べ、株式のウエートが高く、リスクを取る積極運用をする方向がうかがえる。
政府はこのJSTの下の大学ファンド運用益から毎年3%を研究支援などに充てる計画だ。井上信治科学技術相は「日本の研究開発でゲームチェンジとなりうる画期的な支援だ」と意気込んだ。
37兆円の黒字を叩き出した「もっている男」
喜田CIOのほかに、もう1人名前を上げよう。
「やはり“もっている男”は違う」――。市場でこう評価されているのは、日本の年金運用の屋台骨を支えるGPIFの宮園雅敬理事長だ。
この宮園氏も農林中金の出身だ。GPIFがこのほど発表した2020年度の運用実績は過去最大の37兆7986億円の黒字、3月末の運用資産額は186兆1624億円まで拡大した。まさに「クジラ」と称される世界最大の年金ファンドに成長している。
宮園氏の船出は決して楽なものではなかった。前理事長の高橋則広氏が女性職員との特別な関係が疑われながら、適切な対応を怠ったとして2020年3月末で退任。宮園氏は、いきなりガバナンスの立て直しと、コロナ禍で混乱する市場への対応という2つの難題に向き合うことになる。
高橋氏も農林中金出身で、マーケット部門に精通した人材だったが、「宮園氏をGPIF理事長に招聘したのは、政権中枢にいる岡山県選出の有力議員」(農林中金関係者)だという。まさに“火中の栗を拾う”人選で、荒海にこぎ出すような宮園丸の船出だった。
だが、ここから宮園丸の躍進が始まる。収益額は底を打ったように反転し、黒字は拡大していった。GPIFが市場運用を始めた2001年度から20年間の累積の収益額は95兆3363億円まで増加している。国民の年金資産拡大に寄与したわけだ。