コロナ禍で企業の台所事情は厳しくなる一方だ。そんななか見直しが進められているのが、社員の賃金制度。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「給与だけでなく、退職金のあり方にもメスが入ります。入社してからの実績や勤続年数で積み上がっていくこれまでの退職金制度が形を変えると、会社員は老後資金の柱を失い、今後より一層自助努力による資産形成が求められることになる」という――。
3つの札束
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コロナ禍の人事部「社員教育はしない、年功賃金はやめる」着々

コロナ禍で経済状況がますます悪くなっているなかで、ひそかに、しかし着実に進行している重大事態がある。それは、日本のビジネスパーソンが長年慣れ親しんできた終身雇用(長期雇用)を支える「基盤」の崩壊である。

失われつつある終身雇用の「基盤」のひとつは、企業の社員育成方針の転換だ。これまでは社員が仕事上で必要なスキルを会社丸抱えで修得させてきたが、本人が自発的に修得する“自助”を奨励する、といった側面支援にとどまる企業が増えている。

テレワークやフレックスタイム制など自由度の高い働き方を認める一方で、キャリアは自ら獲得するべきという風潮と無縁ではない。

失われつつある「基盤」の2つ目は、賃金制度だ。ジョブ型人事制度に代表されるように、従来のように年齢や勤続年数を優遇するのではなく、職責と成果で報酬を決定する制度に改革する企業が増えている。

賃金制度改革の狙いのひとつは、ビジネスモデルの変化に即応できるスキルを持つ外部の優秀な人材を時価=市場価値で迎え入れる受け皿づくりである。だが、それは結果として長期に勤続すれば報酬も上がるという旧来の終身雇用のインセンティブを否定していることになる。

本連載でこれまで書いてきたように、企業によってはリストラで社内の使えない人材を外部の人材で置き換える新陳代謝も発生する。