会社の好きな部署に異動できる「社内公募制」が広がりを見せている。各部署が人材を公募し、社員が直接応募する仕組み。ジャーナリストの溝上憲文氏は「社員の自律的なキャリア形成にもなる制度ですが、欲しがられるのは1~2割程度。実際は狭き門で、何度申し込んでもお呼びがかからない人は多い」という――。
握手を求められている
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導入する企業増加「社内転職制度」で泣く社員笑う社員

“社内転職”制度を導入する企業が増えている。

これは、普及しつつあるジョブ型人事を受けて、好きな部署に異動できる「社内公募制」。社内の各部署が人材を公募し、社員が応募する仕組みだ。

スキルや知識などの職務を明確にした職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に基づいて処遇や配置が決まるジョブ型人事にとって、本人の自律的なキャリア形成は不可欠。やりたい仕事を選び取る社内公募制度はキャリア自律を促す手法として脚光を浴びている。

社内公募自体はソニーが1966年に最初に導入し、1990年代に一部の大企業にも広がった。公募人数が少ないなどの問題もあったが、最近はジョブ型導入企業の三菱ケミカル、NEC、KDDIを中心に公募枠を拡充する動きが広がっている。

三菱ケミカルは2020年10月から課長以上の管理職を除く約1500のポストを公募しているが、今後は管理職にも対象を拡大する予定だ。

日本CHO協会の調査(2020年9月)によると、社内公募の制度がある企業は53%。制度はないが「今後導入を検討したい」企業が29%もある。また、社内公募や社内FA(フリーエージェント)を通じた「人材の活性化や社員の挑戦意欲喚起が必要」と回答した企業は82%に上っている。

社員は自分の好きな部署に応募できるほか、高いポストに異動すれば給与アップも期待できる。会社も仕事への意欲を引き出し、イノベーションを生み出せるメリットがある社内公募。両者にとってまさにウィンウィンの制度のように見えるが、実はデメリットもある。