「どうしてこの人が課長になれたのか?」。大手メーカーの人事担当者が職務実態を分析・評価したところ、管理職失格者が1000人中200人いたという。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「テレワークで部下のマネジメントはますます難しくなり、無能な上司が炙り出されやすくなった。部下たちは日々、LINEやチャットでダメ上司の悪口を言い合っている」という――。
札束
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「どうしてこの人は課長なんだろう」1000人中200人が不適合

これまで十分通用したビジネススキルがコロナ禍で陳腐化する現象が起きている。

例えば、管理職だ。リモートワークの普及によって部下に対するリアルなコミュニケーションが困難になり、マネジメントは一筋縄ではいかなくなった。

管理職には社内の組織変革という逆風も吹いている。旧来の年功的賃金・昇進制度から、降格もありうるジョブ型人事制度に転換する企業が増えている。職務内容が明確化されているジョブ型への移行に伴い、「管理職に不適合」認定される人が続出しているのだ。

2020年4月、従来の年功型人事制度からジョブ型を管理職に導入した大手メーカーの人事担当者はこう語る。

「1000人近い管理職について従来の職務の実態を分析し、評価を行った上で、新たなジョブ等級への格付けを行いました。それをやって驚いたのは『どうしてこの人は課長なんだろう』と思う人が多かったことです。部下はいても業務内容は担当者レベルだし、必要とされるマネジメントスキルや業務の専門性も高くない人が全体の2割もいました。この人たちをどうしようかと人事と経営の間で議論し、管理職から外し、別に『エキスパート職』という箱をつくり、そこに入れて処遇することにしました」

課長から係長へ降格「ボーナス含め約200万円の減収」

つまり200人が管理職不適合者だったことになる。それでも従来もらっていた給与は1年間保証し、その後は人事評価を見て、管理職に戻す人、係長級に降格する人を決めて、いずれは「エキスパート職」を廃止することにしたという。そして1年後の2021年4月にどうなったか。じつに100人超が降格したという。給与はどうなったのか。人事担当者は語る。

「ジョブ型導入の際に従来の扶養手当や住宅手当など諸手当を廃止しましたが、その分は調整給として基本給に入れ込み、3年間でなくすことにしています。その分は残っていますが、従来あった課長手当の10万円がなくなります。10万円ですから年間で120万円。ボーナスを含めると約200万円の減収になります」

企業の課長級の平均年収は866万円、係長級は627万円(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。200万円の減収はほぼ係長並みに下がったことになる。