部下が他部署に引き抜かれて悔しい思いをする上司

一般的な仕組みを簡単に説明しよう。人材を公募したい部署は人事部に募集ポジション、人数、職務内容、職務経歴・経験、求める知識・技能・資格などを記載した募集要項を提出。それが社内イントラネット上に掲載される。応募する社員は規定のレジュメに必要事項を記載して人事部に提出し、その後、書類選考と面接を経て合否が決定する。ここまでは普通の転職の流れと同じだ。

特徴的なのは、上司の了解を得る必要はなく、合格後に人事部から部門長と上司に通知される点だ。上司に了解を求めると「お前は、俺を裏切るのか!」と引き留める可能性もあり、それを防止するためだ。そのため募集部署も応募の秘密が漏れないように細心の注意を払い、面接でも所属部門にばれないように同じフロアを避けたり、日時も気を遣って土日に設定したりする企業もある。リモートワークが主流の今ではそうした気遣いも不必要かもしれない。

合格後、1~2カ月後に異動するが、大事な戦力と考えていた上司は当然、ショックを受ける。IT企業の人事部長はこう語る。

「今の部署に残るように説得を試みる上司もいます。もちろん説得されて応募者が今の部署に残ることはできますが、そういうケースはほとんどありません。また、異動によって欠員が出ても人事として補充することはしません。次の人事異動の時期まで派遣社員でつなぐか、逆に社内公募を使って募集するしかない。結局、部下が今の仕事に対してやりがいや魅力を感じてもらえなかった課長の責任ということにもなるでしょう」

信頼していた部下が他部署に引き抜かれて悔しい思いをするのは転職と同じだが、上司にとっては、ただでさえ忙しいときにいなくなるのはまさに踏んだり蹴ったりの心境だろう。

応募してもお呼びがかかる人は多くて2割程度

しかし部下にとっても決してよいことばかりではない。なぜなら誰もが希望する人気部署は競争率が高く、合格するのは難しいからだ。求めるスキルの持ち主がいなければ採用ゼロもあり得る。結果的に社内での“市場価値”が高い人が採用されることになる。前出の人事部長は言う。

「1人の募集に10人が応募する部署もあります。事業に必要な高いスキルを持ち、どの部署でも欲しがられる社員は全体の1~2割程度です。そのほかの大部分の社員はあえて公募で採るほどの価値はないと見られているようです。人事としては多少経験が不足していても内部で育てることで採用のハードルを下げるように部門長にお願いはしています。とくに新規事業を手がける部門には未経験者を積極的に採るように呼びかけています」

履歴書を見比べる人事担当者
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応募してもお呼びがかかる人は多くて2割程度というのはかなり狭き門だ。決して誰もが希望する部署に異動できるわけではないのだ。それでもくじけずにスキルを磨きながら何回も挑戦するキャリア志向の強い人はどこかの部署に異動することも可能だろう。