「退職金や企業年金も確定拠出年金に全面移行する方向で検討中」

それが先に言った退職金制度の見直しと結びつく。つまり会社が外部に積み立てた退職金を定年後に支払うのではなく「現在の給与に見合った退職金相当額を毎月、前払いで支払う」ようにすることだ。

もうおわかりだろう。毎月、給与額に応じた掛け金を拠出する企業型iDeCoに全面的に切り替えれば、退職金目当てで会社にしがみつく社員もいなくなれば、中途入社の社員が不利になることもない。しかもiDeCoは転職先に持ち運ぶ(ポータビリティ)ことも可能だ。これによって終身雇用の最後の砦となる退職金の存在価値も解消できる。

大手メーカーの人事担当者はその意義をこう語る。

「これまで確定給付年金(A)と確定拠出年金(B)を併用する退職金制度を続けてきたが、終身雇用を支えてきたのが確定給付年金(A)だ。これからは社員がキャリアを自分で築き、その都度会社と向き合い、お互いが選び合う関係になっていくだろう。会社に長く帰属し、会社もそれを望む関係から脱却すべきだ。退職金や企業年金も確定拠出年金(B)に全面移行していく方向で検討している」

すでに大手企業ではiDeCo(B)に全面移行する企業も登場している。博報堂DYホールディングスも2018年4月から移行。またパナソニックに続いてソニーが2012年入社の社員から確定拠出年金を導入、2019年10月には既存社員を含めて全面移行している。今後も増えてくるのは確実だろう。

iDeCoの書類に赤ペンで丸
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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企業型iDeCoで約4割の加入者が想定利回りを超える運用ができず

しかし社員にとって喜ばしい話とは限らない。

上手に運用すると退職金を増やせるメリットがある反面、失敗すると本来もらえる退職金より減るデメリットもある。会社にとっては決まった掛金を拠出するだけの確定拠出年金(B)だが、社員にとっては“未確定給付年金”であり、運用結果は自己責任になる。

実は企業が設定している平均想定利回りの2%程度になっている。想定利回りとは、会社が想定した退職金目標額を前提に掛金を運用する利回りのことである。

つまり拠出した掛金を2%で運用すれば退職金目標額に達するが、2%を下回れば定年退職時の目標額に達しないということになる。

2021年3月末の企業型iDeCo(B)の通算利回りは株高の影響で平均5.10%と前年のマイナス0.94%から大幅に改善した(年金情報)。だが、約4割の加入者が想定利回りを超える運用ができず目標額を達成できていない。

先の厚労省の調査によると、平均退職金額(大学・大学院卒)は1997年の3203万円から2017年は1997万円にまで落ち込んでいる。

今後、退職金見直しの動きが加速すれば、老後の生活費補完の役割を失う。自助努力による資産形成が一層求められることになるだろう。

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