カーター政権を思い起こさせるバイデン政権
そもそも陸に囲まれたアフガニスタンは、情勢が常に不安定で「帝国の墓場」といわれる場所。紀元前からペルシャ帝国やアレキサンダー大王など、どこの帝国が入ってきても、結局は統治できずに逃げてしまうほど。アフガニスタンは国家としてまとまっている建前ですが、実態としては部族同士がずっと群雄割拠して、いつまでもまとまりません。陸の奥地なので、テロリストが出入りしやすく、麻薬の成分を含むケシの栽培も盛ん。とにかく何をやっても統治の及ばない地域がアフガニスタンなのです。
そんなアフガニスタンに、1979年から1989年まで侵攻していたのがソ連です。1988年に『ランボー3/怒りのアフガン』というシルヴェスター・スタローン主演の映画が大ヒットしましたが、まさにこの映画の舞台がアフガニスタン。スタローン扮 するランボーがアフガニスタンに入っていき、ソ連軍と戦うというストーリーでした。
当時、カーター米大統領はソ連のアフガニスタン侵攻を批判し、経済制裁の発動やアフガニスタンの反政府勢力への武器提供、また西側諸国にモスクワ・オリンピックのボイコットを呼びかけました。
しかしカーター政権は、イラン革命やイランのアメリカ大使館人質事件などを防ぐことができず、中東から撤退。その後、非常に不安定化し、たった1期でレーガン大統領に政権を譲りわたすことになりました。
レーガン政権が誕生したあとのアメリカは非常に強くなりました。ブルース・スプリングスティーンの“Born in the U.S.A”が大ヒットしたように、アメリカは突然元気になって復活。そして数年後、アメリカは冷戦に勝って、ソ連は崩壊しました。
この歴史上の流れを今回、同じようにたどるのではないかというのが、僕の考えです。つまりカーター政権の中東撤退により、アメリカがソ連に勝つことができたように、バイデン政権がアフガニスタン撤退をすることで、今の主敵である中国との戦いに勝つことができるのではないかということです。
この20年、アメリカが中東で争っている間、世界で何が起こっていたかというと、中国が非常に伸びてきました。もともと地政学では「西ヨーロッパ」「中東」「東アジア」は三大戦略地域といわれ、この三大エリアでは常に衝突が起こっています。
本来であれば、アメリカは「東アジア」で対中政策をしなければいけないのに、「中東」にリソースを引っ張られすぎていました。それが今回、損切りできたおかげで、「東アジア」対策に取り組むことができるようになったのは、アメリカにとってプラスですし、日本にとってもプラスです。
では「バイデン政権にとってはピンチ」とはどういうことでしょうか。バイデン政権の功績は大きいですが、撤退時に同盟国とのすり合わせもなく、関係者間の残留問題もあって、アメリカの当事者が深い傷を負っていることは間違いありません。おそらくバイデン政権は、かつてのカーター政権のように、これから不安定化するでしょう。
アメリカ国民からの支持を失い、もしかしたら2024年の大統領選挙では、民主党が負けてバイデン政権は1期4年間だけで退陣になるかもしれない。まさにカーター政権のように失敗したという汚名を着せられて、あまり幸せな感じに終わらないんじゃないかなと予想されます。これが「バイデン政権にとってのピンチ」です。