過去の栄光にすがり今の実績に乏しい人はお呼びがかからない
しかし、いくら門戸を広げてもお呼びがかからない人もいる。
「1つは現在の部署で目立った実績もなく、人事評価も高くない人。いくら職務経歴書に若い頃の華々しい実績を並べても、今の実績や評価が低いと新しい部署に移っても活躍できるとは思えません。面接で『プロジェクトリーダーとしてチームを束ねて成果を上げました』と言っても、今の部署でどういう評価を受けているのか、社内ですからそれとなく調べれば化けの皮がはがれます。
もう1つは上司や職場に不満があるから応募した人です。仕事の幅を広げたい、新たなスキルにチャレンジしたいというのではなく、職場の人間関係が嫌だからという不純な動機で応募する人。こういうタイプは面接でもわかりますし、パスすることはありません」(前出・人事部長)
過去の栄光にすがり今の実績に乏しい人、職場に不満を抱く動機が不純な人はどの部署からもお呼びがかからないということだ。そういう人でも入れる部署があるかもしれないが、ひょっとしたらパワハラ上司が待ち受ける“ブラック部署”かもしれない。
社内公募の“裏テクニック”とは
実は社内公募には“裏テクニック”もある。
以前、大手電機メーカーの不採算部署に勤務する40代の男性からこんな話を聞いたことがある。
「今の職場にいてもいずれ事業閉鎖されることはわかっていました。そこで昔から社内の運動サークルでつきあいのあったグループ企業の部長をしている先輩に飲み屋で相談したんです。そうしたら『わかった。今度うちの部署で社内公募を出すから応募しろ』と、言われたのです。『他に応募者がくるかもしれませんが、大丈夫ですか』と聞くと『心配するな、他に応募者がいても本命はお前だ』と言われました」
つまり、社内公募制度を建前に使った情実採用が実際に行われている。これは許されるのか。前出の人事部長は「あり」だと言う。
「公募部署がどういう基準で選んでいるのか、人事部は介入できませんし、介入するつもりもない。あくまでも本人の能力を認めて、受け入れ部署の責任で預かるわけですから。逆に社内の人脈やネットワークを使って採用を勝ち取ることも本人の能力と言えるでしょう。実際に当社でもそうしたケースはあると思います」
本命が決まっているのに知らずに応募する人はかわいそうな気もするが、一般の転職の世界でも起こりうる話だろう。
これまでの人事異動は会社の指示・命令で異動するのが普通だった。社内公募を拡大することで自律的にキャリアを選択する人が増えることはよいことだろう。
しかし一方で、過去には人気部署に優秀な人材が集中し、そうでない部署に人が集まらないという全社最適の人材配置に支障が出る事態も発生している。
そのため社内公募を抑制的に使う企業もある。人事権を手放していない日本企業が多い中で、ブームの社内公募制が本当に定着していくのかわからないが、ひとつの実験であることは間違いないだろう。