抑圧的な環境で植えつけられる論破的思考が日本の成長を阻害している
論破的思考を対話的思考にアップデートすることは、組織の発達段階を根本から引き上げることに貢献します。ティール組織を実現するための3つの要件は、①「自主経営(self-management)」、②「全体性(wholeness)」、③「進化的目的〔存在目的〕(evolutionary purpose)」と言われています。これらはそれぞれ、①「仲間との関係性の中で自ら課題を発見し、それに対処するための力を養うことができているか?」、②「職場との精神的な一体感を感じることができているか?」、③「なぜこの仕事は世界に存在すべきなのか?」ということを問い続けることで初めて獲得できる特性です。
言い換えれば、ティール組織実現のための要石となるのは、「問い」を生み出し、生産的な議論を展開する対話的思考に他なりません。したがって、各人に「気づき」を与え、「自ら思考する力」を育む対話的思考の文化が醸成されていなければ、私たちは組織の発達段階のステージを上げることができないのです。
対話なき環境においては、事あるごとに否定と命令の言葉ばかりが飛び交うようになります。疑問文を用いて相手に一見歩み寄りの姿勢を見せていても、それが実際には「偽の疑問文」で、無意識のうちに相手を否定しにかかっていることすらあります。こうした抑圧的な環境の中で育つことによって植え付けられてしまう論破的思考こそが、個人や日本社会の成長を根本的に阻害しているのです。しかも、実際には「論破」にすらなっておらず、自分の意見を押し通そうとしているだけの人が多いということも、ここで付言しておく必要があるでしょう。
組織に対話的思考を定着させる8つのチェックリスト
自分たちの組織が対話的思考の文化を醸成することができているか否かという点は、次のチェックリストを用いて確認することができます。本稿では、代表的な項目を8つ挙げます(Yes or Noで回答が可能です)。このチェックリストは、建設的な議論を心地よく行える人々に共通して見られるメンタリティを筆者が独自に抽出したものです。
こちらのチェックリストを活用してみることで、「自分(ないし自分たちの組織)がどこまで対話的思考を実践できているか否か?」についての確認をしてみてください。
2.お互いの発言を遮らず、相手が話し終わるまで相手の意見を聞いている。
3.相手の話に違和感を覚えたとき、いきなり断定的な「否定文」から話し出すのではなく、まずは「疑問文」から意見を提示している。
4.「偽の疑問文」ではなく、本来のイントネーションで疑問文を発話している。
5.本質的な問いを発し、他者を傷つけるような問いを回避するために、常識や教養をアップデートする機会を生活の中で設けている。
6.「あなたの働く目的は何ですか?」「あなたの人生の目的は何ですか?」といった抽象的かつ本質的な問いにも粘り強く向き合うことができる。
7.信頼関係に基づき、お互いに「助言」を求め合っている。
8.相手からのフィードバックを、「未来の自分の視点」として素直に受け取ることができる。
このチェックリストのうち、「はい」が5個以上あてはまれば、ある程度組織に対話的思考が浸透していると言えます。逆に5個未満なら、組織のあり方を見直すとともに、企業研修や社内ワークショップ等を通して個々人の意識改革を図っていく必要があるでしょう。
実際の議論の場においてこれらのチェックリストを活用することで、少しずつ対話的思考の文化を組織に定着させることができます。それは、組織の未来をより豊かなものにするだけでなく、一人ひとりの成長にも貢献するのです。