融通がきかないシステムが生まれる根本原因

なぜ、このような残念な事態が、繰り返されるか。犯人は情報システムそのものではない。融通の利かない情報システムに縛られるのは、その開発が「ウォーターフォール方式」で行われているためである(図表1の左側参照)。

出所=M.ルメイ『みんなでアジャイル』オーム社、2020年、p.12を基に筆者作成

ウォーターフォール開発では、まず発注企業とシステムベンダーが協力して、開発する情報システムにどのような機能を搭載するかを、対象業務の調査や分析などを踏まえて検討する。そして搭載するすべての機能の要件定義を確定したうえで、設計と構築に移る。包括的なドキュメント(設計仕様書)を作成し、これを基にプログラミングを進めていくのである。

新たな開発手法「アジャイル」の誕生

このウォーターフォール開発の問題に気づいたソフトウエア開発者たちが、2002年に「アジャイルソフトウエア開発宣言」を米国で発表した。この宣言では、よりよい開発方式は、「包括的なドキュメントよりも動くソフトウエアに」「計画に従うことよりも変化への対応に」価値をおくことから生まれると語られている。

アジャイル方式では、情報システムに組み込む機能のすべてではなく、必要最小限の機能を備えた製品(MVP:Minimum Valuable Product)から開発をはじめる(図表1の右側参照)。情報システムの利用では、使ってみることで、何が必要かが明確化することが少なくない。それならば、必要最小限の機能を備えたシステムをまず作成し、導入して使ってみればよい。そして利用データを解析し、不足や不具合を洗い出し、その後に追加で改修や各種の機能を開発し、また使ってみる。

こうすることで、実際には使わない機能の開発に時間をとられることなく、使い手が必要とする機能を、どのように利用されるかを踏まえて開発することができる。この計画―開発―導入―検証のサイクルを、短い期間でクルクルと回していけば、開発する機能などを柔軟に後から付け足したり、変更したりできる。