イノベーションを実現するための2本柱

こうしたコンサルティング型の営業を強化したことで、富士通では近年、アジャイル開発の受注が増加している。アジャイル開発を経験した顧客がその利点を実感し、次の受注につながるなどの好循環も生まれはじめている。開発する情報システムの全体を早期に確定しないアジャイル開発への理解が、富士通の顧客組織のあいだに広がりはじめている。

ウォーターフォール方式とアジャイル方式にはそれぞれの利点があり、開発効率等を単純に比較するのは難しい。富士通がアジャイル方式で手掛けたあるプロジェクトで、立ち上げからわずか8カ月で試験運用を開始できた事例がある。これは60%の状態でもいいからユーザーに早い段階で触れてもらい、改良を行いたいという意図に基づくスケジュールで、単純に従来方式と比べて開発期間全体を短縮できたというものではない。

それでも、2020年に出されたマッキンゼーのレポートによれば、アジャイル方式にヒントを得て組織改革に取り組んだ22の企業では、開発期間や生産性が30~50%改善し、顧客満足度が10~30%高まるなどの成果が見られたという(“Enterprise agility”, McKinsey, March 2020)。富士通もまた、積年の課題だったアジャイル方式の市場導入のボトルネックを克服していくなかで、同様の成果を実感している。

アジャイル方式という新たな開発方式と、その特性を顧客組織の課題解決に活かす提案を行う営業方式という2本の柱を確立したことで、富士通はアジャイル開発の受注を増やしつつある。アジャイルに限らず、デジタル時代にあって日進月歩の各種の開発方式については、技術的手法をマスターするだけではビジネス機会を拡大させるには十分ではなく、営業をはじめとするマーケティングにおいても新たなやり方を開発していく必要がある。

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