新しい開発手法が受注を増やしてくれるわけではない
富士通が経験したのは、アジャイル開発ができるようになりさえすれば、受注が順調に増加するわけではないという営業問題である。この問題は、発注する組織の担当者が、アジャイル方式での開発を依頼した経験がなったり、少なかったりすることから生じていた。
経験がなければ、開発方式の適否の見極めの判断は難しい。あるいはアジャイル開発だとどのように発注を行い、設計や構築が進んでいくかも、見通しを立てにくい。そのために、本来であれば適しているはずのアジャイル開発ではなく、慣れ親しんだウォーターフォール開発での発注が続き、残念なシステムがつくられ続けるということすら起きていた。
そこで富士通は現在では、発注側の組織の経営課題をビジョンなどの上流にさかのぼって理解し、提案を行う営業を強化している。これは、受注するシステムの上位にある顧客組織の課題に向き合う営業であり、顧客がどのようなビジネスのために情報システムを利用しようとしているかのヒアリングを行い、その結果を踏まえて提案を行うという、一種のコンサルティング営業である。
回り道に見えても顧客とともに考える
顧客組織の経営課題を、上流にさかのぼって理解する営業の利点はどこにあるか。
第一に、アジャイル開発とウォーターフォール開発それぞれのメリットとデメリットに通じている富士通は、顧客組織の担当者では判断がつかない選択問題に踏み込んで提案を行うことができる。
第二に、富士通がアジャイル開発の提案を行う際は、最初に作成する必要最小限の機能は何か、その仕様の検証を踏まえて拡張をどのように進めるか、といった、「ビジネスを育てながらシステムをつくる方法」を顧客組織とともに考え、提案していくことができる。
目先の受注を増やすそうとするのであれば、この富士通の営業は回り道かもしれない。たしかに顧客がウォーターフォール方式での開発を発注してくるのであれば、手っ取り早いのはそのまま受注する対応である。
しかしその結果、富士通が納入するシステムが顧客組織の活動の足を引っ張るものとなると、確実に顧客の不満を招くことになる。こうなると、将来の富士通の受注の喪失へとつながりかねない。富士通がアジャイル開発も提供できるのであれば、必要な顧客組織にはアジャイル方式を提案していくことが健全であり、将来のリスクの低減にもつながる。