顧客課題の性質に応じた開発手法の選択

アジャイル開発は万能の手法ではなく、利点はあるものの、開発の条件によってはウォーターフォール開発が適することも少なくない。アジャイル開発への受注を拡大するためには、顧客との関係にていねいに向き合う必要がある。富士通ではこのように考え、アジャイル開発の営業を進めてきた。

富士通では現在、顧客組織の課題をその組織のビジョンや中長期の計画にさかのぼって理解する営業への取り組みを進め、手応えをつかんでいる。同社の金融機関向けのシステム開発や営業を担当する第三ファイナンス事業本部・証券事業部の齊藤弘樹氏によれば、このような営業が必要となるのは、どのような課題の下での業務であるかによって、適したシステム開発の方式は異なるからである。

タブレット端末を持つビジネスマンとアジャイルの概念
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例えば、銀行の店舗などで人の手で行っていた作業をシステム化していくような場合には、ウォーターフォール開発を採用する方がむしろ適していることもある。しかし、デジタル技術を活用して、今までになかったビジネスを新たにはじめるような場合には、当初はビジネス・フローの詳細は完全には見通せない。

新しいビジネスのシステム構築に適した「アジャイル開発」

金融の領域では、フィンテックを活用して、事業者の取引履歴などの分析を融資の審査に活用する新しい事業に取り組むといったケースが近年増加している。このように金融機関の側にも前例がない、あるいはあっても極めて少ないビジネスを、デジタル技術を活用してはじめる場合には、ウォーターフォール開発を採用して早期に仕様の確定を行うと、使わない機能が満載の一方で、肝心の機能が使いにくいシステムが出来上がることになりがちである。経験がない事業や業務に何が必要かを、経験を蓄積する前に見定めることは難しいからである。

このようなケースではアジャイル開発を採用して、必要最低限の機能のシステムをまず作成し、実際に使ってみることで、付加する機能の必要性の高さを見極め、追加で開発サイクルを回していく方がよい。