国税局の調査がマインドコントロールから救い出した

料調の調査開始当初、X子は「国税局には『私が稼いだお金はすべて、X子さんに渡して預かってもらいました。稼いだお金で私が過食しないよう、X子さんは預かってくれていたんです』と話しなさい」などとA子さんに指示し、この趣旨に沿った内容の確認書まで書かせようとした。

田中周紀『実録 脱税の手口』(文春新書)

だが13年12月初旬、調査を担当した料調の実査官から「これまでX子があなたに話してきた中身はすべてデタラメ。あなたはX子に強烈にマインドコントロールされている」と説得され、A子さんはようやくマインドコントロールを脱け出すことができた。

同年12月11日午前の売り上げを最後に、A子さんは店やオプションサービスで得た稼ぎをX子に差し出す行為を取り止め、彼女との関係を清算して埼玉県内の実家に帰った。料調はA子さんの3年分の事業所得を8586万5480万円と認定し、無申告加算税を含めて4100万円超を課税したもようだ。

A子さんは弁護士を通じて14年2月、渡したカネを返すようX子に請求した。しかしX子はこれに応じず、A子さんはX子を相手に、東京地裁に損害賠償請求訴訟を起こす。

そして17年1月18日、同地裁は「A子さんから受け取ったのは、家賃の未払い分や相談料としての100万円程度に過ぎず、1億円ものおカネは渡されていない」とするX子の主張を退け、X子に対し、A子さんに慰謝料と弁護士費用合わせて9824万4880円を支払うよう命じる判決を下した。

料調の調査という“外圧”が、結果としてA子さんをマインドコントロールから救い出したのだ。

幼い頃に自営業の実家が納税に四苦八苦したり、社会に出たあとに医療費や住宅ローンの控除、相続税の納税などに直面したりする機会でもない限り、日本国民が国税当局の存在を認識する機会はまずない。

そんな国税当局に徴税に関する絶大な権限を与えている以上、義務教育期の国民に納税についての最低限の知識を与えておくことは、政府に課せられた義務の一つではないのか。

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